食後眠気に襲われる「血糖値スパイク」の自覚症状と予防・対策法
食後に急激に眠気や頭痛に襲われたことはありませんか?もしかしたら、最近TVや雑誌などのメディアで取り上げられている「血糖値スパイク」が原因かもしれません。
最近の研究で、糖尿病ではない健康な人でも「普段は正常だが、“食後の短時間だけ”血糖値が急上昇する」という現象が起きているとわかってきました。ところがなかなか気づきにくいことも多いようで、知らないうちに体が蝕まれいる危険性もあります。
こちらの記事では、そんな「血糖値スパイク」について詳しく解説していきます。
血糖値スパイクとは?
本来、食事をして血糖値が上昇すると、すい臓から「インスリン」というホルモンが分泌されます。インスリンが筋肉や肝臓、脂肪組織にブドウ糖が取り込まれる(貯蔵する)ことで血糖値が下がり、ある一定の血糖値を保とうとします。
しかし普段は正常にもかかわらず、糖質を過剰に摂取したり、食事バランスが悪いなど要因はさまざまですが、食後(1~2時間の間)急激に血糖値が上昇(140mg/dl以上)してしまう人がいるようです。
急激に血糖値が上昇すると、上昇した血糖値を下げようと大量の「インスリン」が分泌されます。この大量のインスリンによって血糖値が下がり過ぎてしまう現象が起きてしまいます。
つまり「食後の短時間で血糖値が急上昇、急降下すること」を「血糖値スパイク」とよんでいるのです。
血糖値スパイクは気づきにくいのか?
健康診断や病院での一般的な検査では、空腹時の血糖値を測定し、HbA1cを測定している場合が多いかと思います。このHbA1cというのは「過去1~2ヶ月間の血糖値の平均値」です。
よって「食後の急激な血糖上昇、その後の急降下」という血糖値の変動が平均化されてしまい、血糖値の日内変動や日差変動を把握できないので見逃されてしまうのです。
そこで注目したいのが、スタンフォード大学の研究です[1]。この研究では、健康な成人の血糖値を継続的に2~4週間測定、観察した結果、健康な人でも「血糖値スパイク」が起こるとわかりました。
この研究では、参加者の血糖値の変動を3つのグループ(小さい・中くらい・大きい)に分けて観察しました。そうしたところ血糖値の1日の動きは、食後2時間後の血糖値、空腹時血糖値、HbA1cが関連しており、空腹時血糖値などが正常であっても日内変動が大きい人もいるとわかったのです。
つまり健康な人であっても「血糖値スパイク」が起きる可能性があるということです。
血糖値スパイクが起きるとどうなるのか?
症状
血糖値が急激に下がる「血糖値スパイク」では、
- 動悸
- 頭痛
- 目のかすみ
- 空腹感
- 眠気
など、低血糖時に似た症状が起きるようです。どうしてでしょうか?
脳の主なエネルギー源は「ブドウ糖」です。血糖値が急激に下がった状態は、「血管内にブドウ糖が少ない状態」。つまり脳にエネルギーが行き渡りにくい状態です。この危険な状態を脳が察知して頭痛や眠気、動悸などサインを出しているのです。
長期的な影響
「血糖値スパイク」を放置しておくと、糖尿病の発症リスクや、酸化ストレスによって血管が傷つけられることによる、心疾患の発症リスクも上がるといわれています。また2型糖尿病患者の研究では、血糖変動が心疾患の重症度に関与するという報告もあります[2]。
さらに認知症のリスクも上がるのではないかと考えられています。本来、インスリンはアミロイドβ※1という脳のゴミを掃除する働きがあります。しかし高インスリン状態では、その機能がうまく働かず、アミロイドβを蓄積しやすくなるので、認知症のリスクが上がるのではないかと考えられています[3]。
「血糖値スパイク」の状態では、一時的に大量のインスリンを分泌することで、高インスリン状態になってしまうので注意が必要というわけです。
※1 アミロイドβ:脳が活動したときに生まれる老廃物(脳のゴミ)。この物質の蓄積がアルツハイマー病発症の引き金と考えられている
生活リズムや食事リズム、バランスを考える
スタンフォード大学の研究では[1]、食事についても興味深いことがわかりました。参加者に栄養量の異なる3種類の食事を摂取してもらい、血糖値の変動を観察しました。
3種類の食事内容
- コーンフレーク+牛乳
- プロテインバー
- ピーナッツバターサンドイッチ
結果、コーンフレークを食べた場合、参加者の60%に著明な高血糖を認め、その他の食事については個人差があったようです。
日本においても同様のシチュエーションがあるのではないでしょうか。たとえば「おにぎり」や「うどん」だけを食べる食べ方。一見、カロリーはそんなに高くありませんが、主食のみで偏りがあります。
それではどのようなことに気をつけたらいいのでしょうか。
3食バランスよく食べる
1日3回、きちんと食事をすることが大切です。
たとえば朝食を抜いて昼食を食べた場合、急劇に血糖値が上昇してしまい、「血糖値スパイク」を招きかねません。
また食事バランスも重要です。
このような食事をしていませんか?麺とごはんを組み合わせる食べ方は、「血糖値スパイク」の危険性が高まります。
ではどのような工夫ができるでしょうか。
たとえばチャーハンを控えて、もやしラーメンを選択してみてはいかかでしょうか?主食の量も減りますし、もやしで野菜を摂取できるので急激な食後高血糖を防げるのではないでしょうか。
さらに思い切って「一汁三菜」のような定食に変えるとよりよいでしょう。一汁三菜のような日本食は、無形文化遺産に登録されるほど栄養バランスが整っており、健康的な食事であるといわれています。
食べる順番を意識する
野菜やメインディッシュ(お肉や魚)から食べることで、食後の高血糖を抑制できるという報告があります。
ジュースやお菓子を控える
ジュースやお菓子には、たくさんの砂糖(ブドウ糖)が含まれています。とくにジュースは、液体であるためにとても吸収がよく、急激に血糖を上げてしまいます。習慣的にジュースやお菓子を摂取している場合は、週に1回にするなど頻度を減らしてみてはいかかでしょうか。
最近では、ゼロカロリージュースや特定保健用食品のジュースなどを多く見かけるようになりました。そちらに切り替えるのも有効ではないでしょうか。
食後の運動
最後に運動です。運動することで血管内の「ブドウ糖」が筋肉に取り組まれてエネルギーとして利用されます。
つまり運動することで食後の高血糖が抑制できるのです。
まとめ
健康な人でも起こっているかもしれない「血糖値スパイク」。一見、恐ろしいですが、日頃の食事や運動にしっかり取り組むことで予防できます。
とくに食後の眠気や頭痛に悩まされている方は、一度食事を見直してみてはいかがでしょうか。
参考文献
1. Hall, H., Perelman, D., Breschi, A., Limcaoco, P., Kellogg, R., McLaughlin, T., & Snyder, M. (2018). Glucotypes reveal new patterns of glucose dysregulation. PLoS biology, 16(7).
2. Su, G., Mi, S., Tao, H., Li, Z., Yang, H., Zheng, H., … & Ma, C. (2011). Association of glycemic variability and the presence and severity of coronary artery disease in patients with type 2 diabetes. Cardiovascular Diabetology, 10(1), 19.
3. 横野浩一. (2010). 糖尿病合併症としてのアルツハイマー病. 日本老年医学会雑誌, 47(5), 385-389.