寝る前のストレッチで得られる効果とおすすめのストレッチ法
最近ぐっすり眠れていますか?
睡眠は一日の心身の疲労を回復させたり、脳の記憶を整理する大切な時間です。人間の「三大欲求」のひとつである睡眠。少しでも睡眠の質を上げたいところですよね。
日本の就労者の平均睡眠時間は、男性で7時間52分。女性で7時間33分という調査があります[1]。一日の約3分の1を布団の中で過ごすわけですから、布団に入る前によい準備をしましょう。
今回のコラムは「寝る前のストレッチ」に焦点を当て、メリットや期待できる効果についてお伝えします。
よい睡眠のために
「よい睡眠」とはなんでしょうか?
よく「8時間は寝たほうがよい」といわれますが、人それぞれ「何時間寝るのがよい」という明確な基準はありません。生活習慣や仕事によって眠れる時間は個人差が大きいです。それよりも眠った後の「質」が大切です。
レム睡眠とノンレム睡眠
「レム睡眠」「ノンレム睡眠」をご存じでしょうか[2]。
レムは 「REM:Rapid Eye Movement(眼のすばやい動き)」の略です。睡眠中でも眼がピクピク活発に動くことから名づけられました。レム睡眠の時間は、脳の記憶の定着や整理整頓がおこなわれています。夢を見るのも「レム睡眠」でおこるとされています。
一方、「ノンレム睡眠」はレム睡眠とは反対の意味です。ノンレム睡眠の時間は、大脳も休息していると考えられており、脳や身体の疲労回復にとても重要な時間とされています。
またノンレム睡眠には眠りの深さの指標が4段階あります。4段階のうち、眠りはじめに深い睡眠が訪れます。眠りの深さでいうと「4」。そこからレム睡眠になり、ノンレム睡眠の「3」といったように、明け方にかけて少しずつ眠りが浅くなっていきます。
図1:夜間睡眠パターン
厚生労働省より引用[2]
この「レム睡眠」「ノンレム睡眠」は90分のサイクルで入れ替わり、通常3回~5回繰り返す(4時間半~7時間半)と目が覚めます。
寝る前のストレッチで得られる効果
睡眠についてわかったところで、寝る前にストレッチをするとどんな効果が期待できるのか見ていきましょう。
ストレッチには筋肉の緊張をほぐし、血行をよくする作用があります。この作用により手先や足先など末端の血流がよくなるのです。すると身体は、手のひらや足の裏などから熱を逃がします。これは「熱放散」と呼ばれる働きで、脳を休ませるために必要な働きです。
日中、脳は温度を高く保ち活動しています。その一方、夜間は体から熱を逃がし、脳は温度を下げて休もうとします。この動きにより「メラトニン」とよばれる睡眠を促すホルモンが分泌。赤ちゃんが眠る前に手足がぽかぽかと温かくなるのは「熱放散」をしているためなのです。
図2:眠りのメカニズム
厚生労働省より引用[2]
最適な環境を整えてストレッチをすることで、末端の血流がよくなります。そして覚醒と眠気のホルモンバランスが整うことで、スムーズな入眠に繋げる効果が期待できるのです。
寝る前に適したストレッチ
ストレッチは大きく2種類に分けられます。
- 静的ストレッチ:ゆっくりと筋肉を伸ばして柔らかくする「クールダウン」に適したもの
- 動的ストレッチ:反動を使って大きく関節を動かしていく「ウォーミングアップ」に適したもの
寝る前は「静的ストレッチ」が適しているのは一目瞭然ですよね。筋肉の緊張やコリをほぐし、血流をよくして一日の疲れを取ることが優先されます。後述するストレッチは「静的ストレッチ」と「脱力ストレッチ」を組み合わせます。
リラックスできる環境を作ろう
1.お風呂につかる
ストレッチの効果を最大限引き出すには、筋肉を温めることが大切です。
ぬるめのお風呂にゆっくり(20~30分程度)つかると血行がよくなり、手足の温度があがります。スムーズな入眠の条件は、深部体温(身体の中心部の温度)が下がることも必要ですので、ストレッチをする前にお風呂に入りましょう。
2.暗くする
普段からテレビやスマホなどをよく利用する方は、画面の照明の明るさで交感神経(ストレス状態)がONになっています。ストレッチする場所はできるだけ照明を落とし、身体をリラックスしやすい状態にしましょう。前述した眠気を促す「メラトニン」は、明るい環境だと分泌されにくいです。
3.ゆるめの服を着る
運動のためのウェアは身体のラインが出やすいものが多いです。しかし寝る前のストレッチにはあまり適していません。そのまま布団に入って寝ても問題のない、身体を圧迫しないような服でおこなうとよいでしょう。またむくみ予防の圧着タイツなどもストレッチの際は外しましょう。
4. アロマや音楽を活用する
リラックスするには脳神経に関わる「におい」や「音」も非常に大切です。好きなアロマやお香などを使ったり、テンポのゆったりとしたヒーリングミュージックをかけるとよいでしょう。においや音に敏感な方は、なくても大丈夫です。
5. 寝る前のカフェインやアルコール、タバコは控える
コーヒーや緑茶、紅茶などに多く含まれるカフェイン、タバコに含まれるニコチンには「覚醒作用」があります。寝る前の摂取は身体を起こしてしまい、睡眠の質を下げてしまいますのでカフェインやタバコは控えましょう。寝る前のアルコールは一時的に寝つきがよくなりますが、全体では睡眠の質を下げてしまいます。飲みすぎに注意しましょう。
寝る前のストレッチ4選
寝る前のストレッチのポイントは「呼吸」と「脱力」です。
呼吸はとくに「息を吐く」ことに集中しましょう。息を吐いているときは心拍数が下がり、リラックスしやすくなります。「脱力」はストレッチの基本です。頑張りすぎると身体が緊張してしまうので、寝る前のストレッチは気楽におこないましょう。
1. 身体の背面のストレッチ
①足を伸ばして座ります。ひざ下に枕や布団などを入れてもよいでしょう。背中を少し丸めて手を伸ばし、ふくらはぎからつま先のあたりを持ちましょう。
②前かがみになり、身体の後ろ側を伸ばします。ふくらはぎから太ももの後ろ、腰から背中にかけて気持ちよく伸ばしましょう。
③ある程度伸びを感じたら、さらに身体を前へ伸ばします。
④ゆっくりと呼吸を繰り返し、気持いい範囲で続けます。
⑤20秒×3回繰り返しましょう。
2. 身体の前面のストレッチ
①仰向けに寝ます。肩甲骨の下あたりに枕をおいて、背中に緩やかなカーブを作ります。
②両手を頭の上に伸ばし、ひざも伸ばして全身で伸びをしましょう。身体を少し反らせるような形で、前側の筋肉を伸ばします。
③ある程度伸びを感じたら、さらに手と足の指を身体から遠ざけるように伸ばします。
④ゆっくりと呼吸を繰り返し、気持いい範囲で続けます。
⑤20秒×3回繰り返しましょう。
3. 全身ぶらぶらストレッチ
①仰向けに寝ます。手と足を挙げて、天井に向かって伸ばします。ひじやひざは軽く曲げて、リラックスしましょう。
②手足を小さく細かく「ぶらぶら」と振ります。血液やリンパなどの水分を身体の中心に流すようなイメージでおこないましょう。
③呼吸を続けながら、心地よい揺らし方でおこないます。
④20秒×3回繰り返しましょう。
4. 全身脱力ストレッチ(筋弛緩法)
①仰向けで寝て、手足を「大の字」に広げて脱力します。
②赤ちゃんがお母さんのお腹に入っているときのように身体を小さく丸めます。あえて「ギューッ」と全身に力を入れましょう。
③10秒力を入れたら、一気に脱力して20秒ほどリラックスします。力を入れるときに呼吸を止めて血圧が上がらないようにしましょう。
④「10秒力を入れる」「20秒休む」を5セット繰り返します。
まとめ
ストレッチは、なにを目的としておこなうのかによって内容が変わります。
今回のコラムでは、少ない時間でも全身をリラックスさせられるストレッチを選びご紹介しました。寝る前に多くのストレッチを長時間かけておこなうのは身体への負担も大きいです。
個人差はあるにしろ、忙しい毎日の中で「睡眠」にはある程度の長い時間を割きます。布団の中で過ごす時間が、みなさんが「よく寝たなあ」と納得できるものになれば、日々の生活サイクルも潤うかもしれません。
ぜひ、セルフケアの一環として寝る前のストレッチを取り入れてみませんか。
参考文献
1. 厚生労働省. 睡眠と生活習慣病との深い関係 | e-ヘルスネット. 閲覧2020-09-26, https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-008.html
2. 厚生労働省. 眠りのメカニズム | e-ヘルスネット(厚生労働省). 閲覧2020-09-26, https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-01-002.html