WRITER
島袋 好一
トレーナー(寄稿)
最終更新日:2018.12.04
こんにちは、GronG TEAM GEARの島袋です。
今回は、「高齢者におけるバランストレーニングの意義」についてお話をします。
急速な勢いで高齢化を続けた日本社会。21世紀を迎えると同時に医療費の膨張を防ぐための介護保険制度が施行されました。
しかし実態は、当初の予測をはるか上回る勢いで制度の利用者が激増し、介護保険制度の財源を逼迫するようになりました。その水際作戦として、2006年の改正介護保険法の一端を担うものとして「高齢者への運動機能向上」のための介護サービスが開始され「介護予防の概念の提唱」が積極的におこなわれるようになりました。
※介護予防とは要介護状態となることを防ぐ(遅らせること)
その目論見は定期的な運動の実践(具体的には筋力やバランス能力向上トレーニング)により運動器の機能低下を遅鈍化させ健康寿命を延長。そして要介護状態へ移行する高齢者層を減少させ、財政負担を中長期的に軽減させることにありました。
しかし先の展望では、第一次ベビーブーマー世代の高齢者世代突入とともに、現行の制度の改定を余儀なくされました。さらに2006年の制度施行後2度の変遷を経て、軽度介護サービス利用者を取り巻く環境は非常に厳しくなってきています。
普段耳慣れない言葉が多く羅列されてますが、わかりやすく解説すると、
①日本では、21世紀に急速な勢いで高齢者が増加した。
そのため欧米とは違い優れた健康保険制度(加入者は3割負担で皆医療を受けれらえる)が崩壊しそう。
②そうならないように、「介護」という形でその軽減をはかろうとしたが追いつかない。
「ミイラ取りがミイラになる』」
③その打開策として運動を実践した介護サービスを施行。
④が、我が国の人口動態がそれを許さない。いよいよそのサービスが改訂する段階にきた。
という感じです。
少し厳しくいえば我が国も国民ひとりひとりが、これまでのように「悪くなったら医療によって治してもらう」といった対処医学的なリスクヘッジから、欧米のように公金を使うのではなく「自らのカラダは自ら鍛えて管理する」という自己防衛による「攻め」の介護予防へパラダイムシフトが余儀なくされているのです。
皆さまもご周知のとおり「要介護」状態に至る主たる原因の一つに「転倒による骨折」があります。さまざまな先行研究の中でそれを誘発するのが「バランス能力の低下」であることがわかってきています。
以前のコラムで子どもたちとバランス能力を形成する現代の環境について書きましたが、大人を取り巻く環境もそう大差はありません。
https://grong.jp/blog/children-balance-sense/
機械文明の発達により利便性の高い文化的な生活を手に入れるようになった反面、その代償として運動器を積極的に使わなくなってしまった。一昔前は、運動機能を維持するための日常生活での運動器への適度な刺激(階段を昇る、自転車で移動するという身体活動が、今はエスカレーターや電動アシスト付自転車という具合に)は、どんどん低下しています。当たり前のようにあった外界からの運動刺激が圧倒的に不足しているのです。
単にバランス能力の低下といっても、おそらく「ピン」とこないと思いますのでこんな場面に出くわしたとして、その状況下のアナタのリアクションを想像して下さい。
いかがでしょうか?
1.について
Ⅰ:となりの人にしなだれかかって「すっ……すいません」と恥ずかしそうに謝った
Ⅱ:ぐっと体勢を持ちこたえ、となりの人を支えた
2.について
Ⅰ:そのままスッ転んで「大丈夫ですか?」と店員さんに駆け寄られたか
Ⅱ:すべったが、ローラーブーツでも履いていたかの如く誤魔化して何食わぬ顔で立ち去った
3.について
Ⅰ:フラッとしてしまって怪訝そうな若者に舌うちされたか
Ⅱ:凛としてぶつかった若者が自身のモラルのなさを詫びてくれたか
ドラマのワンシーンのようですが、いつあってもおかしくないシチュエーションでまさにその展開いかんによっては「天国と地獄」ですよね。運悪くケガなんてしてしまったら目も当てられません……。
実状高齢者の場合は、こんなシーンから、転倒→骨折→長期入院→要介護にいたってしまうケースが少なくありません。
また実際に転ばなくても、転びそうになったという精神的な不安要素が、図のような負のスパイラルのスキームを作り出し、実際に転倒を経験したと同じような結果にいたることも少なくありません。
普段の生活環境下に、疑似的な刺激を作り出しそれに対応する訓練をしておけばよいのです。
体力形成は簡単に言うと山登りに似ています。
幼少期から成年期への道程は、いわゆる登山路の往路で頂きに向かっていくことで、様々な運動経験が得られ「脳や筋肉、神経回路、循環器」といったさまざまな器官や組織を発達させ、その運動形態や能力をプログラミングしていきます。
山頂からの復路は、その風景や体感した刺激を長期的な記憶として余韻に浸りながら、なるべくゆっくりとゴールすることが理想です。しかしながら、往路での経験が乏しいと復路での道筋は非常に味気ないものになってしまいます。
とはいえ『Never too late!』(遅すぎることはないのです)
復路(多くは老後に向かう年齢)から始めてもその人なりの運動効果は得られます。
「思い立ったら吉日」。さぁ始めてみましょう!!
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島袋 好一トレーナー(寄稿)
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