肉離れとは?原因と症状について
世界大会などの大舞台で、選手が全力疾走しているときに急に失速して、足を引きずりながら止まってしまった場面を見たことはありませんか?
このように走れないような状態のときは「肉離れ」が起こっている可能性が高いです。「肉離れ」という文字を見るとなんだか怖いような気がしますが、実際は身体でどのようなことが起こっているのでしょうか。
こちらの記事では「肉離れの原因と症状」について詳しく解説していきます。
肉離れとは
筋肉の繊維や筋膜が強い力によって引き離されて損傷、断裂することから「肉離れ」と表現されます。ちなみに肉離れとは症状の通称で、正式には「筋挫傷」といいます。
本来は伸縮性があり、柔軟な筋肉が一体どうして傷ついてしまうのでしょうか。
肉離れの原因
肉離れの原因には、筋肉の状態や体調などの身体の内側が原因の場合。天候や地面の形状、シューズの底の状態など、身体の外側にある環境が原因の場合があります。
それぞれにどういった理由が考えられるのか詳しくみていきましょう。
内的要因
肉離れはスポーツの現場で起こりやすいのが特徴です。
急なダッシュやジャンプ、方向転換をするとき、筋肉はいったん縮んだ後、伸びながら強い力を発揮します。これは「伸張性収縮」といって、身体が最も強い力を生み出す動きなのですが、筋肉にかかる負荷も非常に大きくなります。この負荷に耐え切れないと、筋繊維や筋膜が傷ついて「肉離れ」が起こるのです。
以下にまとめる条件に当てはまる方は要注意です。
- 筋肉の柔軟性が低下している
- 疲労が蓄積している
- ウォーミングアップが十分におこなえていない
- 適切なフォームでおこなえていない
- 関節が安定していない
もちろん、肉離れはスポーツをしていない場合においても起こりうる傷害です。慢性的な疲労の蓄積や筋肉、関節の柔軟性が低下している場合、荷物を持つ、小走りをするといったような「ちょっとした動作」でも筋肉の損傷を起こす可能性があります。
外的要因
身体は事前に頭で理解して、準備している動きに対してはある程度の予測が立ち、コントロールできます。しかし予測できないような思わぬ負荷がかかる場合は、ケガのリスクが高くなります。
また短期間での連続した試合や部活の合宿など、自分では調整できない過密なスケジュールは、疲労の蓄積につながります。
以下の条件を参考にしてみましょう
- 天候が悪い(雨、雪、風、気温などの悪条件)
- 地面の形状(滑りやすい、足をとられやすい)
- シューズの底の形状(擦り減って滑りやすい、グリップが効きすぎている)
- 休日(オフ)がない
- 練習時間が長い、練習内容がハード
上記に関しては自分でコントロールできない項目も含まれています。
グランド整備やシューズの見直しなど、最低限の準備はしておく必要性があります。しかし天候や開催日程などについては、競技指導者やスポーツ大会の開催者にも、一定の理解と対応が求められる問題です。
肉離れの症状
肉離れで起こる症状は損傷の程度により異なります。以下に特徴的な5つの症状をご紹介します。
- 疼痛:炎症により発痛物質が分泌されて起こる。
- 皮下出血:筋肉が傷つくことで患部に出血が起き、赤~赤紫色を呈する。
- 熱感:炎症により患部が熱を持つ。程度により強くなる。
- 腫脹:炎症部位は白血球が集まるため、血液やリンパ液などにより腫れる。
- 機能障害:筋肉本来の機能が低下する。力が入らない、伸び縮みできないなど。
好発部位
肉離れは脚の筋肉でよく起こります。
ダッシュやジャンプは主に股関節から下の筋肉でおこなわれることと、下半身の筋肉は全身に対して占める割合が大きいため、筋肉自体の発揮する力が大きいことが原因だと考えられます。
ふくらはぎ
ふくらはぎの肉離れは「テニスレッグ」ともよばれます。
テニスのように急激なダッシュやジャンプ、前後左右への激しいストップ&ゴーをおこなうスポーツは、ふくらはぎの筋肉に非常に大きな負担がかかります。
またふくらはぎの末端はアキレス腱と連結しています。アキレス腱は非常に強いバネの役割をしていて、身体の力を地面に伝えたり、地面からの反発を受け止めたりするため、大きな負荷がかかるのです。
太ももの後ろ
太ももの後ろ側にある大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋で構成される筋肉を「ハムストリングス」とよびます。
ハムストリングスは身体を前方向へと運ぶために大きな推進力を生み出します。発揮する力が大きい分、筋肉の状態によってはケガにつながるリスクの高い部位です。
とある調査では、スポーツ選手のケガの12%がハムストリングスの肉離れであることが報告されています[1]。また肉離れを起こした陸上選手は、太ももの前にある大腿四頭筋に比べて、ハムストリングスが弱く筋力のアンバランスが大きかったという研究もあります[2]。
太ももの前
太ももの前は主に身体にブレーキをかけてストップさせる際に働きます。「大腿四頭筋」という筋肉で、減速時のブレーキやジャンプ後の着地などで力を発揮し、「蹴る」動作においても、強い力で膝を伸ばす働きがあります。
下り坂を勢いよく走ったりすると、疲労が蓄積されやすいので注意が必要です。
程度の見分け方
肉離れには筋線維の微小な損傷から、筋肉の完全断裂まで程度に大きな開きがあります。もし肉離れを起こした場合は、速やかに専門の医療機関を受診することが最も大切です。
最近では、レントゲンやMRI検査による画像診断。そして超音波によるエコー検査により、血腫や筋肉の損傷度合いが確認できるようになりました。
しかし医療機関を受診するまでの間は、症状をどのように判断すればよいのでしょうか。目安となる基準をご紹介しますので、参考にしてみてください。
軽度
筋肉自体や筋膜にほとんど変化はなく、筋線維が強い力で引き伸ばされた後に細かい損傷が起こっている状態です。動作時の少しの違和感や部分的な圧痛(押さえた時の痛み)であることが多いです。基本的には歩行も可能です。
中等度
筋膜の断裂やごく一部の筋線維の断裂はみられることがあります。患部の圧痛だけではなく、損傷による軽い陥凹(筋肉が凹んでいる状態)や運動時の疼痛があります。受傷時に「プチっ」と音が聞こえることがあり、場合によっては歩行が困難な場合もある状態です。
重度
筋膜の断裂や筋肉自体の部分断裂がみられる状態です。筋肉が裂けるような「ブチっ」という音と感覚を伴うことが多く、受傷直後から歩行不能になります。強い圧痛や局所の明らかな陥凹、運動時痛がみられます。
程度による違い
程度に応じておおよそ、復帰までの予測を立てられます。
軽度の場合は約1~2週間でスポーツが可能となるでしょう。中等度の場合は約1~2ヶ月が必要となるでしょう。重度の肉離れの場合は手術が必要になる症例もあります。
一度損傷した部位は、適切な処置をしておかないと、血腫(血液のかたまり)の残存や、修復過程での筋拘縮(筋肉が固まってしまうこと)がみられる場合があります。これらにより、機能障害が残り、再受傷を起こすリスクが高くなるのです。
自分だけでは判断せず、専門の医療機関を受診し、適切な診断と予後の指示を仰ぎましょう。
肉離れと間違えやすい症状
肉離れといっても、症状の度合いに差があるため、他の症状と間違えやすい場合があります。ここでは、肉離れと似て非なる他の疾患と比べ、違いを確認しておきましょう。
こむら返り
「こむら返り」は、ふくらはぎで起こりやすい筋肉のけいれんです。「足がつる」といわれる現象で、非常に激しい痛みを伴います。睡眠中によく起こりますが、運動中に起こることもあります。
原因は、主に脱水症状によるミネラルの不足や、筋肉の疲労による機能異常であることが多いとされています。
見分け方としては、こむら返りの症状は激痛を伴い、ケイレン中は脱力できません。またけいれんは数分間もすれば治まります。これに対し、肉離れは筋肉の炎症ですので、受傷後の痛みが続き、組織が傷ついているため、力が入りにくいという特徴があります。
筋膜炎
「筋膜炎」は使いすぎで起こる炎症です。主な症例としては、ランナーに多い「足底筋膜炎」や重労働者に多い「腰背部の筋膜炎」が挙げられます。筋肉を繰り返し酷使することで疲労が蓄積し、痛みを伴うのです。多くは安静にすることで軽快します。
見分け方としては、筋膜炎は使わないようにして疲労を抜けば、痛みが治まっていくという特徴があります。軽度な肉離れとは明確な鑑別が難しい場合もあるため、画像診断で適切な診断を受けましょう。
まとめ
肉離れはスポーツに親しんでいる方であれば、誰しもが起こりうる症状です。
自分自身のコンディションを整えて予防に努めるとともに、所属するチームの指導者やチームメイトを含めた全体的な理解も大切になります。
一流の選手が道具を大切に扱ったり、シューズをこまめに手入れするのをみたことがありませんか?アマチュアであっても強豪チームは、グランド整備や体育館の掃除を徹底しておこなっています。
そんな地道な活動が、競技に取り組むレベルを高め、身体へのリスクを減らすことにつながっているのかもしれません。
参考文献
1. Freckleton, G., & Pizzari, T. (2013). Risk factors for hamstring muscle strain injury in sport: a systematic review and meta-analysis. Br J Sports Med, 47(6), 351-358.
2. Yamamoto, T. (1993). Relationship between hamstring strains and leg muscle strength. A follow-up study of collegiate track and field athletes. The Journal of sports medicine and physical fitness, 33(2), 194-199.