マッサージが痛い!はたして効果は!?
少し前までは、エンターテインメントの世界で足つぼマッサージは罰ゲームでした。「いたたたたっ!」というリアクションでついつい笑ってしまった方もいるのではないでしょうか。昨今では問題視されるような内容の演出が、かつてのメディアにはありましたよね。
おかげで「マッサージ=痛い」と連想する方も少なからずいらっしゃると思います。
またエステサロンやアロママッサージなどで、「ゴリゴリ」とリンパを流すようなマッサージを受けたことがある方もいるでしょう。強く揉んでもらわないと、マッサージを受けた気がしないという声もよく聞きます。
でも少し考えてみましょう。はたして、痛いマッサージは本当に効果があるのでしょうか。その真偽やいかに。こちらの記事では、痛みを伴なうマッサージについて解説します。
痛みと身体の関係
身体は痛みを感じたとき、どのような反応を示すのでしょうか。身体の仕組みを交えながら、痛いマッサージが身体に与える影響をみてみましょう。
痛みを感じる仕組み
身体には刺激を受け取るためのセンサー「受容器」があります。また痛みの種類は大きく2つに分けられます。
- 「体性感覚」⇒皮膚で感じる「皮膚痛覚」と筋肉や腱、関節で感じる「深部痛覚」の2つ
- 「内臓痛覚」⇒内臓で感じる痛み(結石や炎症によるもの)のこと
マッサージによる痛みは、主に体性感覚によるものです。皮膚や筋肉に対して強く、
- 圧迫
- 揉む
- つまむ
ような動きが加わり、それが一定以上のレベルになると、その刺激は神経を通じて脳に伝えられ、身体は「痛み」として認識します。
痛みを感じた後の反応
痛みを感じると、身体は交感神経の緊張と運動神経を興奮させ、血管の収縮や筋肉の緊張を起こします。その結果として、血行が悪くなったり、「痛みを起こす物質」の発生につながります。
つまり痛いマッサージを受けると、本来の目的である「筋肉の緊張をほぐす」「血行を良くする」とは反対の結果になってしまう可能性があるのです。
痛いと感じるレベルの違い
人によって「痛い」と感じる刺激は異なります。痛みに強い人と弱い人の差は「閾値」というもので決まります。
痛覚閾値とは「痛い」と認識する刺激の最低強度のこと。マッサージでいえば、「気持ちいい」と「痛い」の分かれ目というところです。よく「痛気持ちいいくらいの強さ」という表現がありますが、あきらかにこれを上回る刺激は「痛み」になります。
また一定の部位に同じ刺激を連続して与えると、痛覚閾値は低下してしまいます(痛覚過敏となる)。慢性的な肩こりに関して「リラクゼーション店で揉んでもらっているけど、その場しのぎで一向によくならない」という事例の原因はここにもあるかもしれませんね。施術者もこの辺りをわきまえていないといけません。
疼痛閾値は心理状態やストレスの程度、家庭や社会的環境によっても大きく変わります。その方の現状をある程度は把握しておかないと、同じ刺激でも日によっては「痛い」と感じているかもしれません。
閾値を下げる | 閾値を上げる |
---|---|
不快感、不眠、疲労 | 症状の緩和、睡眠 |
不安、恐怖、怒り | 休息 |
悲しみ、うつ状態 | 周囲の人々の理解、共感 |
倦怠感 | 気晴らし |
内向的心理状態 | 不安の減退 |
孤独感 | 気分の高揚 |
社会的地位の喪失 | 服薬 |
表1:痛みに影響する要因
慶応義塾大学病院 緩和ケアセンターより作成[1]
表1をご覧いただくと、ストレスや精神状態、体調や周囲との関係で痛みの閾値は変わることがわかると思います。
「痛いマッサージ」の効果
厚生労働省の報告によると、全国消費者生活ネットワークシステム(PIO-NET) には、手技による医業類似行為(マッサージ含む)に関する相談やクレームが、2007年度以降の約5年間で4,330件寄せられています。そのうち、手技による医業類似行為を受けた後に、なんらかの身体症状が発生したという危害相談は825件にもおよびます[2]。
痛いマッサージで体調が悪くなってしまったり、不快な思いをしていたりする方がいることも事実です。
どんなマッサージであれ、身体は痛みに対して守ろうとする反応を示します。足つぼやリンパを強く刺激され「痛いのはそこが悪いからですよ」「痛いのは老廃物が溜まっているからですよ」という説明に明確な科学的根拠はありません。
強い刺激に対して「これを耐えれば楽になれる」と我慢をしたり、施術者に遠慮をして「痛いです」というのを躊躇することで、身体は心身共にストレスを受け、さらに筋肉が硬くなり、血行が悪くなるという悪循環に陥ります。
また日本において、マッサージ行為を認められているのは、
- 医師
- あん摩マッサージ指圧師
- 理学療法士(医師の指示にもとづく場合)
のみです。施術を受ける際は、施術者のプロフィールもチェックした上で担当者を選ぶようにしましょう。
まとめ
痛いマッサージにおいては身体に対しての有効性を示す明確な根拠はありません。
もし施術を受けている際に痛みを感じるようであれば、「強すぎます」と申し出て、施術を弱めてもらったり、担当者を変更してもらうようにしましょう。
「押してダメなら、もっと押せ」というのはマッサージには通用しないセオリーです。身体の不調を癒すためにムリをすることが、本当に自分のためになるのか、あらためてもう一度考え直す機会になればと思います。
参考文献
1. 慶應義塾大学 緩和ケアセンター. 痛みのアセスメント
2. 独立行政法人 国民生活センター. 手技による医業類似行為の危害
-整体、カイロプラクティック、マッサージ等で重症事例も-