猫背の原因がストレッチ?正しい猫背のケア方法
猫背で首や肩が凝るし「ストレッチをしてほぐそう!」とついやっていませんか?
ストレッチってなんだか身体によさそうだなと思うかもしれません。しかし身体によいものも使い方によっては、身体に負担を与えてしまうことがあります。
猫背の予防やケアには、その根本的な原因を解明し、アプローチする必要があります。はたして猫背ケアのためにやることはストレッチだけでよいのでしょうか。またストレッチをやるとすれば、どこを伸ばすのが効果的なのでしょうか。
今回のコラムでは猫背に関するあれこれを解説し、解決までの道筋をご提案します。いまこそ、しつこい猫背にサヨナラしましょう!
猫背のメカニズム
猫背とは
「猫はこたつで丸くなる~♬」なんて歌があります。猫背はどのような状態を指すのでしょうか。
猫背は医学的には「上位交差性症候群」といいます。猫背は背中が前方へ丸まり、頭が前へ出ている姿勢のことです。
背骨には24個の椎骨と呼ばれる骨があり、積み木のように重なることで脊柱と呼ばれる骨組みを形成しています。首や背中、腰のいずれかに負担がかかることで姿勢が崩れ、前のめりになってしまうのです。
姿勢の変形には骨の変形など「構造的な問題によるもの」と、骨格や関節の歪みによる「機能的な問題」があります。前者の「構造的問題」は外科手術などの介入が必要です。しかし後者の「機能的な問題」は、適切な対処法を継続すれば改善が期待できます。
マッスルインバランス=筋機能の不均等による機能不全
猫背は「マッスルインバランス」と呼ばれる筋肉の機能不全が原因です[1]。
本来筋肉には、適度に緊張して関節を安定させたり、収縮する力を変えることで関節を動かしたりする機能があります。ところが生活習慣や加齢、ストレスなどによって、筋肉の弱体化や短縮、過活動が起こると姿勢のバランスが崩れてしまいます。
姿勢を正しい位置に保つための筋肉が弱体化したり、頭を支えようと過活動になって硬化している状態が長時間になればなるほど、筋肉のアンバランスが加速していきます。
実は猫背を助長する?よかれと思ってやっていること
首や肩が凝るからといって、ストレッチをして伸ばしたりしていませんか?またこのときに伸ばしたほうがよいのは、首や背中の筋肉なのでしょうか?
アンバランスが起こっているとき、筋肉は短縮固定と伸長固定という2種類の状態に分かれます。筋肉の長さや張力を感知するセンサーに働きかけるには、固定されている状態とは「反対の力」を加える必要があります。
- 短縮固定=ずっと縮んでおり、伸びる力が弱っている⇒伸ばしたら「ゆるむ」
- 伸長固定=ずっと伸ばされており、縮む力が弱っている⇒伸ばしても「ゆるまない」
身体の構造と仕組みを理解しないまま猫背が「よくなりそうな」ストレッチだけを繰り返しても、なかなか思うような結果は得られません。身体の改善には、正しい知識をもとにした、科学的な分析がとても重要になるのです。
猫背を正しくケアするには
これまでお伝えしてきたとおり、身体を変化させるには効果を出すための手段を順序立てておこなう必要性があります。
筋肉を動かす「運動神経」には脳から筋肉へのメッセージを伝える「遠心性神経」と、筋肉から脳への情報をフィードバックする「求心性神経」の2つの回路があります。2つの神経を介した情報のやり取りで、姿勢や筋肉の緊張状態が決まるのです。この仕組みを理解して、アプローチすることが大前提になります。
STEP1 アンバランスのリセット
猫背ケアの第1ステップは、まず首の後ろの筋肉を縮めて、胸の前の筋肉を伸ばし、アンバランスをリセットする段階を踏むことです。
姿勢は本来あるべきポジションに戻ると、脳から筋肉への命令も正確になり、必要以上に筋肉が活動することを予防できます。正しい姿勢をインプットするように心がけましょう。
STEP2 よい姿勢とバランスの維持
よい姿勢に誘導したら、その状態をキープできるように筋肉を使うことが大切です。よい姿勢で筋肉を動かすことが、これまでとは異なる刺激を与え、脳から筋肉への命令と筋肉から脳への情報のやり取りを更新し、上書きすることにつながります。
STEP3 姿勢保持筋の強化
身体は気を緩めると、楽なほうにだらけてしまう習性があります。しかし常々よい姿勢をキープするのは現実的ではありません。
たとえば無重力空間で長期間過ごす宇宙飛行士は、地球に戻る頃には筋力が落ちてしまうことを聞いたことがありませんか?抗重力筋と呼ばれる「重力に負けないように対抗する筋肉」を鍛えることで、よい姿勢を続けることが可能になります。
ストレッチの実例紹介
STEP1 固定された筋肉のリセット
猫背の姿勢において伸長固定されやすい筋肉は、後頭下筋群、僧帽筋上部、肩甲挙筋の3つです。一方で短縮固定されやすい筋肉は、身体の前側にある大胸筋や小胸筋、胸鎖乳突筋、前鋸筋などが挙げられます。
まずはこの硬く、可動性の低下した筋肉をほぐしてリセットするところからはじめましょう!
肩ぐるぐるストレッチ
①背筋を伸ばし、ひじを曲げて、手を肩に乗せます。
②ひじで円を描くように内側から外側にむけて回しましょう。
③10回おこなったら、外側から内側にむけて回します。
④呼吸を続けながら合計20回おこないましょう。
首ぐるぐるストレッチ
①背筋を伸ばしましょう。
②首を時計回りに動かして、前後左右の筋肉を伸ばしていきます。
③頭を1周回すスピードが10秒程度になるように、数をカウントしながらおこないましょう。
④今度は反時計回りに動かします。
⑤時計回りを5回、反時計回りを5回繰り返します。
肩ねじりストレッチ
①背筋は伸ばしましょう。壁と平行になるようにします。
②ひじと肩の高さが同じくらいになるように壁に手をつきます。
③そのまま胸を開く方向に身体をひねり、手をついたままゆっくりと伸ばします。ある程度伸びを感じたら、軽く胸を張ります。ついいている手の親指が上に向くように肩をねじると、さらにストレッチ効果が増します。
④気持ちのよいところで止めてゆったりと呼吸を続け、20秒キープします。
⑤反対側も同様にストレッチしましょう。
STEP2 姿勢を維持する背骨周りのエクササイズ
多裂筋エクササイズ
①壁に自分のつま先をくっつけて立ちます。
②バンザイをして壁に手をつきましょう。そのままおしりを突き出すようにしてしゃがみます。
③背中に少し張りを感じたら、もう少ししゃがんでさらに伸ばしていきます。
④気持ちのよいところで止めて呼吸を続け、5秒キープを5セットおこないます。
あご引きエクササイズ
①背筋を伸ばします。壁に後頭部や肩甲骨、おしり、かかとをつけて立ちましょう。
②後頭部が壁から離れないようにしたままあごを引き、5秒キープします。
③少し休憩して、またあごを引きましょう。5回繰り返します。
上向きエクササイズ
①背筋を伸ばします。両手を頭の後ろで組み、親指が後頭部のすぐ下にくるようにします。
②両手で頭を支えながら、ゆっくりと天井方向に顔をあげましょう。
③ゆっくりと下ろします。首の付け根をほぐすように上下しましょう。
④5秒キープを5セットおこないます。
STEP3 重力に負けない!抗重力筋エクササイズ
よい姿勢をキープするために大切な「抗重力筋」は大きく分けて5つ。
- 背中:脊柱起立筋、広背筋
- 腹筋:腹直筋、腸腰筋
- お尻:大臀筋
- 太もも:大腿四頭筋
- ふくらはぎ:下腿三頭筋
これらをひとつの運動で同時に刺激するトレーニングをご紹介します。
かかしトレーニング
①壁を背にして立ち、片方のひざを持ち上げて片足立ちになります。ももが床と平行になるようにします。
②両腕をバンザイして頭の上に挙げましょう。足を挙げたまま、壁沿いに腕を擦らせるようにしてスライドします。
③肘を曲げながら肩甲骨を寄せ、手のひらがあごのラインにくるように下げましょう。
④バンザイの位置に戻します。
⑤足をあげたまま、手を10回動かしましょう。
⑥反対も同様におこないます。左右2セットずつを目安にします。
まとめ
今回ご紹介した「マッスルインバランス」をはじめて聞いたという方もいらっしゃったかもしれません。
現代社会の発展は我々人類の生活に大きな恩恵と利益を生み出してきました。その半面、デスクワークなどの長時間作業が主体となり、代償として背骨にかかる負担が増え、猫背(上位交差性症候群)に多くの方が悩まされることになりました。
筋肉を動かすのは、ヒトが生まれながらにして持つ、自然な働きです。本来ヒトは、長時間身体を動かさずに座り続けるための機能を兼ね備えていません。
身体にとって不自然なことを続けて、不自然な姿勢になるのであれば、身体にとって自然な動き(筋肉を伸び縮みさせる=身体を動かす)をして、自然な姿勢を取り戻すことが猫背解消への近道なのではないでしょうか。
今回ご紹介した解消法は、デスクワークの合間にもできるものです。休憩時間に少しずつ取り入れてみてくださいね。
参考文献
1. 赤坂清和. (2007). マッスルインバランスに対する評価と理学療法. 理学療法科学, 22(3), 311-317