ぎっくり腰とは?原因と予防・対策について
「ぎっくり腰」になったことはありますか?
実は誰にでも起こる可能性のある症状で、ある日突然起こります。欧米では「魔女の一撃」とよばれ、あまりに突然の痛みに「これは魔女の仕業だ!」と例えられるようになったといわれています。
とてもつらいその痛みが起こったとき、実際どうすればよいのでしょうか。今回は「ぎっくり腰の原因と予防法」について解説していきます。
ぎっくり腰とは
冒頭「魔女の一撃」と紹介しましたが、実際に魔女が悪さをしているわけではありません。ぎっくり腰の正式名称は「急性腰痛症」です。
急な動きや負荷により身体に過剰なストレスが掛かった結果、発症するのです。場合によっては、その場から動くこともできないような激痛もあります。
では次に、ぎっくり腰が起こるメカニズムと原因についてご紹介します。
ぎっくり腰の原因
ぎっくり腰になる原因は多岐にわたります。
さまざまな条件が重なった結果、強い痛みとして現れます。生活習慣や運動量など、人それぞれに違うはずなのに、誰にでも起こりうるのです。
ぎっくり腰を起こしやすい原因というのは一体どんなものがあるのでしょうか。大きく分けて4つご紹介します。
1.腰回りの筋肉が弱っている
- 若い頃より〇〇kg増えてしまった。飲み会続きでビール腹。
- 腹筋が一回もできません。運動不足で下腹がぽっこり。
- すぐに猫背に。後ろ姿は年齢以上。
これらは腰周辺の脆弱(ぜいじゃく)化のサインです。
あばら骨から骨盤までの間は、背骨しか骨がありません。実は筋肉が中心となって腰を支えているのです。具体的には、
- 腹横筋
- 多裂筋
- 内外腹斜筋
- 横隔膜
- 骨盤底筋
といった筋肉が一つの「ユニット」を組んで一緒に動いているのです。人間の体にはコルセットのような筋肉が存在し、必要なときに機能することで、姿勢を保持し安定して動作ができるようになっています。
これらは一定以上の負荷がかかる(重いものを持つなど)際に、腹圧といってお腹の中の圧力を高めるという役割があります。しかし体重増加や筋肉の脆弱化により、うまく機能しない状態が続くと動作の際に「ぎっくり腰」になるリスクが高くなるのです。
2.姿勢により関節にかかる負担が増えている
- デスクワークで常に猫背(前かがみ)になる。
- 立ち仕事でよくハイヒールを履いている。
- 家ではぐったりソファーに寄りかかる。
これらも関節にかかる負担が増えるサインです。
具体的には、「腰椎」という腰の背骨は本来であれば自然な前カーブ(前弯)があり、そのカーブによって背骨にかかる負担をうまく吸収し、緩和しています。ところがPCやスマホと向き合う仕事で猫背だったり、立ち仕事とヒールで常に反り腰だったり、ソファーにもたれてくつろぐ時間が長すぎると、「腰椎」に変化が起こるのです。
背骨(椎骨)と背骨の間は「椎間」とよばれ、そこには「椎間板」とよばれるクッション材のような組織があります。椎間板は円状の線維軟骨でゼラチン状の髄核とコラーゲンを含んだ線維の輪で構成されます。
この椎間板の内圧の上昇は腰へのストレスの指標になります。良い姿勢で立った姿勢の内圧を「1」とすると、良い姿勢で座った場合だと「1.4倍」。前かがみで座ったり、重いものを持ち上げた場合だと「2~3倍以上」の圧力がかかるという報告もあります[1]。
このように長時間同じ姿勢をとることによる関節への負担が、ジワジワとぎっくり腰になる状態を作っているのです。背骨のカーブが本来の機能を失い、椎間板内の圧力が上がることでぎっくり腰になりやすい状態を招きます。
3.スポーツや運動などで筋肉に過剰なストレスがかかっている
- 趣味や部活、あるいは職業としてスポーツに取り組んでいる。
- 日々アクティブに毎日ジムでハードにトレーニング!
- 身体を動かすのが仕事!建築業や農業、運送業、医療福祉サービス業などに従事。
これらに該当する方は体力に自信があり、自分が腰痛になるなんて考えたこともない方も多いかもしれません。運動をしない方からすると、筋肉も鍛えているのにどうして痛くなるの?と思うこともあるでしょう。しかしぎっくり腰は、そんな人にもやってくる可能性があるのです。
筋肉は姿勢の保持や関節の安定といった機能を持ち合わせています。運動をして筋肉を鍛え、「筋力」「筋持久力」を向上させることは、この機能を高めてさらに動きのレベルを上げることにつながります。
しかし過信をしてはいけません。筋肉には「限界」があります。フルマラソンを100m 9.58秒の世界記録ペースで走り続けるのが不可能なように、筋肉がその能力を発揮するには適切な運動と休養が必要になります。
上記の方に共通していることは常に「過度なストレスがかかっている」ことです。部活はオフなし、ジム通いも休館日以外は毎日。仕事は納期があるから休めない。など、筋肉の休まる暇がないことも一つの要因になり得るのです。
「筋疲労」とは、体を激しく動かしたあとや長時間同じ姿勢を続けるなど筋肉の使いすぎで起こる筋肉の疲れのことです。筋肉の使いすぎで血液の循環が悪くなり、筋肉が硬くなってうまく伸び縮みができなくなります。
すると筋肉本来の機能が失われ、負担に耐えられなくなるのです。その他にも、激しい運動により筋線維が壊れ、細かい炎症を起こします。これらが筋疲労の原因にもなります。
頑張りすぎた身体は疲労困憊になり、「もうこれ以上頑張れない」というときに無理をすると「ぎっくり腰」が起こるリスクが高まるのです。
4.普段はしない動きをする
- スポーツや運動前に準備体操はしない。
- 重いものを運ぶとき、中身など事前の確認はしない。
- 誘われたら断れない性格。やったことのないこともしてしまう。
体は脳のコントロール下にあります。脳で身体への命令が出され、それに従い身体は動きます。至極当然の流れなのですが、少し立ち止まって考えてみましょう。
筋肉と脳の連携を高めるために「意識をする」こと「準備をする」ことで防げるぎっくり腰もあります。
意識をする
「マッスルマインドコネクション:MMC」という身体の働きがあります[2]。
動かす筋肉を意識することで、対象の筋肉の活性が高まり、より大きな力を発揮できるというものです。
筋肉は細かい筋線維が束になって構成されています。力を出すときには「動員数」といって、どれだけの筋線維がその運動に参加するかが重要になります。意識をすることでこの「動員数」が増えて、より効率よく運動できるというわけです。
準備をする
ストレッチなどの簡単な準備運動により、筋肉の温度が上がります。また血流が良くなることで、筋肉の活動量が増えて、より質の高い動きが可能になります。
今までにしたことのない動作や重いものを持つことは「予想だにしない動き」が起こりうる可能性が高いです。その際に、身体が準備できていれば「ぎっくり腰」の予防につながり、負担を軽減することにもつながります。
「ぎっくり腰」にいえることは、どんなに筋力や体力に自信がある人でも起こりうる症状だということです。身体に絶対はありません。
自宅でできるぎっくり腰の予防・対策
いくら予防に努めていても、なるときはなる。「ぎっくり腰」とはそういうものです。ではそのときがきたら一体どうすればよいのでしょうか。
直後~2、3日間
ぎっくり腰になった後、まず第一にできる最善の方法は「医療機関の受診」です。
最初は腰の痛みや違和感は軽くても、炎症は徐々に進んでいきます。まだ動くことができる場合は、速やかに近くの医療機関を尋ねて、早期の処置をしてもらいましょう。今後、炎症の広がりを抑えるために必要です。
休日や夜間など、医療機関に行けない場合は、自宅で安静に過ごしましょう。スポーツの現場で起こったケガの対処として「RICE処置」というものがあります。以下にご紹介します。
- R:Rest(安静)
- I:Icing(冷却)
- C:Compression(圧迫)
- E:Elevation(挙上)
それぞれの頭文字で「RICE」です。
Rest(安静)
腰に負担がかからない姿勢を取り、安静にします。
横向き、または仰向けに寝た状態で、ひざを軽く曲げましょう。ひざ下にクッションを入れると負担が軽減します。自分に合った楽な体勢を取るようにしてください。
Icing(冷却)
痛みを抑えるためには「冷やす」ことが有効です。
氷のうやジップ付きのビニール袋に氷を入れて、患部を冷やします。急性期(受傷後~48時間程度)はアイシングで筋肉の温度を下げて、炎症物質による痛みを抑えていきます。
※カチカチに凍った保冷剤は、冷たすぎるので低温やけどのリスクがあります
また急性期に「温める」ことはNGです。
炎症の5大兆候として
- 疼痛
- 熱感
- 腫脹
- 発赤
- 機能障害
が挙げられます。痛みがあり、腫れて、熱をもっているので、温めるとそれを加速させてしまいます。
Compression(圧迫)
痛みがきつい場合はコルセットで患部を締めて圧迫するのもよいでしょう。
コルセットは腰の動きをサポートしてくれるので、痛みや不快感の軽減になります。またきつい痛みが取れたら、コルセットには頼りすぎないようにしましょう。自分の筋肉で身体を支え、筋力維持することが大切です。
Elevation(挙上)
患部を少し高い位置に上げることで、痛みが和らぐという方法があります。
ソファーやクッションなどに足を上げて、血流を制限したり、炎症後の老廃物や代謝物質を回収しやすくする姿勢を取りましょう。
痛みのピークは直後から2、3日といわれています。この期間に適切な処置をすることが、その後の経過を大きく左右しますので、よく心得ておきましょう。
2、3日後以降
アイシングをして安静にしていれば、徐々に動けるようになってくるはずです。
ぎっくり腰になった後、安静を続けることで、周辺の筋肉が弱り、回復が遅れるという報告もあります[3]。少しの痛みは我慢しながら、徐々にできるところから生活を日常に戻していきましょう。
可能であれば専門の医療機関で、痛みを抑える治療を受けたり、炎症後に硬くなった筋肉をほぐしたりするのも良いでしょう。鍼灸治療は痛みを抑える神経回路を活性化できます。特にぎっくり腰などの筋肉系の症状には有効です。電気治療なども同様の効果が得られます。
順調に回復すれば、痛みは日に日に治まってくるはずです。身体の経過を見ながら、自分に合ったケアをしてみてください。
「こんなときはどうすれば?」ぎっくり腰、その後のQ&A
基本的なことでもいざとなったら戸惑うこともあるでしょう。ここまでの振り返りを含めた、よくある質問を「Q&A形式」でまとめてお伝えします。
Q1.お風呂は入ってもいいですか?
痛みのきついときは控えましょう。
繰り返しになりますが、痛みの強いときに「温める」ことはNGです。お風呂には浸からずに、しっかりと患部を冷やしましょう。清潔感が気になる方は、さっとシャワーを浴びて汗を流す程度に留めておいてください。
激しい痛みが収まれば、今度は血流を促進するためにお風呂に入っても大丈夫です。一般的な目安は3日目以降で、ある程度痛みが収まっていれば、お風呂に浸かってゆっくり身体を温めましょう。
Q2.薬は飲んだ方がいいですか?
回復を早めるためであれば、薬も大切です。
病院を受診すれば、医師の判断により消炎鎮痛薬が処方されることもあるでしょう。
炎症による痛みのストレスは、次の炎症を生み筋肉の緊張を強めます。痛みが続くと回復を遅らせます。適切に薬を服用して、痛みをうまくコントロールしましょう。
病院を受診できない人は、近くの薬局やドラッグストアで薬剤師さんに相談のうえ、市販薬を購入するのも一つの手段です。
Q3.日常生活で気を付けることは?
負担のかからない動きを心がけましょう。
ぎっくり腰になった1年後には、3分の1の方が中程度から強度の慢性化した痛みを訴え、さらには5人に1人は運動に制限が出たというデータがあります[4]。
少し良くなったからといって油断をすると、痛みが続いたり、ぶり返すこともしばしば。できるだけ負担の少ない方法を身につけて、予防する習慣をつけましょう。
ゆっくり動く
寝返りや立つ、座るという動作の負担を減らすには動きのスピードが重要です。あせらず、ゆっくりと身体を動かしてあげましょう。
例えば、寝ている状態から起き上がる場合、仰向けの状態から膝を軽く曲げて、背中を少し丸めるようにして寝返りを打ちます。一度、身体を横向きにしてから、床に手をついてゆっくりと上体を起こします。これだけでも腰にかかる負担を大きく減らせるのです。
つかまって動く
関節にかかる負荷を分散するためには、なにかに頼ることが大切です。
- ベッド
- 椅子
- テーブル
- 洗面台
- 手すり
- 自分の身体
など、つかまれるものがあれば頼りましょう。
朝、顔を洗うときは洗面台に片手を付いたり、トイレに座るときは壁や手すりを持ってゆっくりと動かしましょう。立ち上がるときも同様です。
Q4.食事はどんなものを食べればいいのですか?
高タンパク食がおすすめです。
痛みで食事もままならないという方もいるかと思いますが、実はケガをしたときの栄養補給はとても重要です。
ぎっくり腰で傷ついた部位は、回復するときにタンパク合成という過程を経て、修復されます。そこではタンパク質を分解してできるアミノ酸という成分が必要になります。タンパク質が豊富な食事を摂って、身体のコンディションを整えるようにしましょう。
タンパク質は食事から取るのが理想的ですが、痛みで食事を作るのが難しい方は、プロテインなどのサプリメントを活用すれば手軽にタンパク質を補給できます。
まとめ
ぎっくり腰は命に関わる症状ではありませんが、一度なってしまうと、激しい痛みによるストレスが強く、生活の水準を著しく低下させます。
できれば経験したくないことの一つですが、人生の中でほとんどの人が経験することでもあります。起こった際に適切な処置をすることで、不快な症状の緩和につながるのです。
再発防止やそもそもの腰痛を予防するためにも、自分の身体を専門家の先生に診てもらうことをおすすめします。思いもよらないことがあなたの腰痛の原因になっているかもしれません。
参考文献
1. Nachemson, A. L. (1976). The lumbar spine an orthopaedic challenge. spine, 1(1), 59-71.
2. Schoenfeld, B. J., & Contreras, B. (2016). CEU Quiz 関連記事 Evidence-Based Personal Training 筋を最大限発達させるための注意集中: マインド-マッスルコネクション. Strength & conditioning journal: 日本ストレングス & コンディショニング協会機関誌, 23(6), 22-24.
3. Malmivaara, A., Häkkinen, U., Aro, T., Heinrichs, M. L., Koskenniemi, L., Kuosma, E., … & Hernberg, S. (1995). The treatment of acute low back pain—bed rest, exercises, or ordinary activity?. New England Journal of Medicine, 332(6), 351-355.
4. Costa, L. D. C. M., Maher, C. G., Hancock, M. J., McAuley, J. H., Herbert, R. D., & Costa, L. O. (2012). The prognosis of acute and persistent low-back pain: a meta-analysis. Cmaj, 184(11), E613-E624.