睡眠中に足(ふくらはぎ)がつる原因とその対処方法
「足つった!足つった~!」と周りに助けを求めた経験はありませんか?
スポーツの試合中継で足がつって動けなくなっている選手をみたり、夜中に足がつって目が覚めたこともあるかもしれません。
なんともいえないあの痛みと不快感。できればあまり経験したくないものです。
「こむらがえり」といったほうが馴染み深いかもしれませんね。昔はふくらはぎのことを「こむら(こぶら)=腓」といいました。名前の通り、「こむら」が「ひっくり返った」ような痛みからそう呼ばれるようになったそうです。昔の人も同じ症状で悩んでいたんですね。
では「足がつる」とき、身体の中ではいったいなにが起こっているのでしょうか。
今回のコラムでは、足(ふくらはぎ)がつる仕組みと、その背景にある症状も踏まえた対策と予防法をお伝えします。
どうして足がつるのか
「攣る(つる)」は正式には「筋痙攣(きんけいれん)」という状態を指します。突然起こり、痛みを伴いながら短時間持続します。筋肉が自分の意志とは関係なく縮まって(不随意収縮)つま先が下方向へ向き、しばらくすると自然に治ります。
最もよく起こる筋肉の痙攣は「特発性筋痙攣」といいます。ここでいう「特発性」とは「原因がはっきりしない」の意味で、特定の病気が原因ではないと解釈しましょう。睡眠中に足がつるのも、原因となる病気がないことがほとんどです。
病気ではないからといって納得できませんよね。具体的にはどんな状態だと足がつるリスクが高まるのでしょうか。
足がつる原因
①筋肉
ふくらはぎは「抗重力筋」と呼ばれ、二足方向の身体を支える重要な筋肉のひとつです。日常生活の動作やスポーツによる負担で血行が悪くなり、疲労物質が溜まって筋肉が硬くなると、正常な働きが失われやすくなります。
また中高年以降は、運動不足による筋肉量の減少や動脈硬化による血行不良も起こりやすくなります。冷え性も筋肉の温度が下がり、血流が悪くなる要因です。足がつりやすい人はとくに足元を温めて寝るようにしましょう。
運動をしすぎても、しなさすぎても筋肉の負担は大きくなり、正常な働きが失われてしまうため、足がつりやすくなると考えられます。
②ミネラルバランス
スムーズさの潤滑油として「ミネラル」が必要です。電解質ともよばれ、
- カルシウム
- マグネシウム
- ナトリウム
- カリウム
などのバランスを一定に保つことで、スムーズな運動が可能になります。
たとえば、運動量が多くなり汗や呼吸で水分が失われることで、体内のカルシウムやナトリウムをはじめとするミネラルは大量に消費されます。そのようなときは特にミネラルが不足しないよう注意する必要があります。市販のスポーツドリンクにミネラルが入っているのもそのためです。
汗をかくのはとくに夏のイメージが多いかもしれませんが、現代では冬場であっても暖かい室内環境が整っているため汗をかきます。また睡眠中にも呼吸や汗によってコップ1~2杯の水分が失われているのです。他にはお腹を下しやすかったり、お薬の影響でトイレが近かったりすることでも水分が失われています。
身体をスムーズに動かすには、ミネラルバランスが保たれている必要があります。加齢とともに身体の調節機能も衰えていくことで、足がつりやすい状態になるのです。
薬の副作用
足のつりは薬によって引き起こされるものもあります。
- 高血圧の薬
- 脂質異常症の薬
- ぜんそくの薬
- 抗がん剤
- ホルモン剤
- 利尿薬
などを服用している方はとくに注意が必要です。
たとえば血圧を下げ、血流をよくするカルシウム拮抗薬には、筋肉に作用して血管を広げるという働きがあります。しかしカルシウムは、筋肉が収縮する際に必要で、これを拮抗(打ち消す)する薬を飲んでいると、本来のスムーズな収縮ができなくなりやすいのです。この薬の副作用により、足がつりやすい方もいらっしゃいます。
ただし持病をお持ちの方は「足がつるのがいや」だからといって、自己判断で薬の服用を止めることはしないでください。必ず、医師に相談の上判断するように心がけましょう。
疾患による「筋肉のつり」
これまでの「特発性」とは異なり、「足のつり」は疾患によって引き起こされるものもあります。あまりにも頻繁に起こるようであれば、なにかの症状が背景にあるかもしれません。必ず専門の医療機関を受診するようにしましょう。
以下に、疾患別に分けてご紹介します。
①血管系疾患
- 下肢静脈瘤
- 血管炎
- 閉塞(へいそく)性動脈硬化症など
これらの疾患により、血管が詰まったり硬くなることで血流が悪くなります。筋肉を栄養し、老廃物を回収する血液が十分に循環しないことで、足のつりを引き起こす原因になります。
②内分泌系疾患
- 甲状腺機能低下症
- 副甲状腺機能低下症
- アジソン病など
ホルモンは内臓や筋肉、骨などに作用してその働きを調整しているのですが、分泌する機能が乱れることで各組織の正常な働きが失われます。これにより、体内の血液量や水分量が変わると、足のつりを引き起こしやすくなります。
③神経系疾患
- 脳梗塞
- 椎間板ヘルニア
- 脊柱管狭窄(きょうさく)症
- 筋萎縮性側索硬化症
- 筋ジストロフィーなど
脳は神経を介して筋肉に「動きなさい」というメッセージを送ります。脳梗塞により神経と筋肉をつなぐ回路になんらかの変化が起こると、筋肉への命令伝達がスムーズでなくなり、足のけいれんが起こりやすくなってしまいます。
④代謝異常
- 糖尿病
- 肝硬変
- 低栄養状態など
身体には「代謝」という働きがあり、栄養や酸素などの活動に必要なものを吸収し、老廃物や二酸化炭素などの不要なものを排出する働きがあります。代謝異常により、物質の出し入れがうまく機能しなくなると、血液成分のバランスが乱れて足がつりやすくなります。
⑤骨関節疾患
- 変形性関節症
- 腰痛症
- 関節炎など
骨は文字通り身体の「骨組み」です。ここに変形や炎症が起こると姿勢が崩れやすくなり、周辺にある神経や筋肉に負担がかかり、ふくらはぎの筋肉を動かすための命令や血流がスムーズに流れにくくなります。これによって足が疲れやすくなったり、筋肉が衰えてけいれんしやすくなります。
これらの疾患が背景にあって、足がつりやすくなっている方は、まずその疾患の治療やリハビリをおこなうことが予防の第一歩です。専門の医師のアドバイスを受けて、対策に取り組むようにしましょう。
対策と予防法
筋肉の状態とミネラルバランスが大切であることは、前述した通りです。
ここからは具体的な対策と予防法についてお伝えします。日常生活ではどんなことに気をつければよいのでしょうか。
足がつったら
①ふくらはぎのストレッチ
足がつってしまったら、無理に押したりして治そうとせず、つりがおさまるまでは楽な体勢を探しましょう。通常であれば1~2分もすればつりは治まっているはずです。
落ち着いたら、ゆっくりとふくらはぎを伸ばしましょう。とくに睡眠中につった場合は、身体を起こすと目が覚めてしまうので、ご自身がやりやすい形でおこなうのがよいでしょう。
ストレッチのポイント
- 寝たままでつま先を手前にして、ふくらはぎの筋肉を伸ばしていきます。
- 余裕があれば、かかとを壁に押し当てたり、つま先を手で掴んでもよいでしょう。
- 呼吸をしながら、20秒ほどゆっくりと伸ばしましょう。
②ゆっくり温める
足を毛布やブランケットなどでくるみ、温めましょう。ゆたんぼなどを使っても効果的です。最近は電子レンジで温める湯たんぽもありますので、用途に合わせてうまく使いましょう。
③漢方を飲む
「芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)」という漢方薬は、昔からこむら返りの症状に使われています。芍薬はボタン科、甘草はマメ科の植物で、それぞれのエキスを抽出し乾燥させたものです。疝痛といって、刺激の強い痛みを抑えたり、筋肉の緊張やけいれんを抑える作用があります。
服用の際は、事前に医師、もしくは薬局やドラッグストアで薬剤師さんに相談しましょう。
足がつらないように
①ミネラルバランスを意識した食事をとる
- マグネシウム⇒海藻類やナッツなどに多く含まれています
- カルシウム⇒乳製品や小魚もとりましょう
- カリウム⇒バナナや納豆などはカリウムが豊富です
②適度に運動する
運動不足だと感じている方は、ウォーキングなどでふくらはぎの筋肉を動かしましょう。もし外出が億劫な方は、自宅でつま先立ちを繰り返すだけでも予防になります。
朝昼晩と20回ずつでも十分です。筋肉が衰えてしまわないように予防しましょう。
③筋肉の疲労をとる
立ち仕事をしている方や運動好きの方は、しっかりと筋肉の疲れをとるケアをおこないましょう。一日の終わりには、できるだけ暖かいお風呂に浸かったり、寝る前にストレッチをおこなって筋肉をほぐし、疲労をとりましょう。
またコンディション維持には食事も大切です。筋肉の元になるタンパク質はもちろん、還元成分であるビタミンB群やC、Eに加えて、スムーズなサイクルのためにも鉄分やカルシウムなどのミネラルもバランスよく食べましょう。
④水分をしっかりとる
「夜、トイレにいきたくない」「むくまないようにしたい」という理由で水分を控えている方が多いかもしれませ。しかしこれでは新陳代謝が悪くなり、老廃物が身体に滞ってしまって、足がつる要因になります。
欧米では「生命の維持には一日に1.5リットルの水を飲む必要がある」という研究結果もあります[1]。日本は和食文化で、料理自体に含まれる水分量が多いので、欧米の食生活とは比較しにくいですが、それでも最低1リットルは飲みたいところですね。
まとめ
寝ているときに「いつこむら返りが起こるか」は予想しづらいです。しかし事前に体調を把握したり、疲労をとるような予防はできそうですね。
人間の身体はとても繊細なメカニズムで動いています。そこに変調があるときには、身体の異変を知らせるサインだと思って、身体の声に耳を傾けてあげましょう。
丁寧に向き合えば、身体も自然と応えてくれるはずです。
参考文献
1. Jéquier, E., & Constant, F. (2010). Water as an essential nutrient: the physiological basis of hydration. European journal of clinical nutrition, 64(2), 115-123.