マッサージの効果に科学的根拠はあるのか?
街を歩けばあちこちにマッサージ屋さんがありますよね。「揉みほぐし60分〇〇円~」という看板を目にすることも多いのではないでしょうか?
肩こりや腰痛をお持ちの方は、定期的にマッサージに通っているという場合も多いかもしれません。出張先や旅行先で出張のマッサージをお願いすることもあるでしょう。人に触れてもらって身体がほぐれると、心もいくらか楽になりますよね。
少し強めのマッサージを受けると揉み返しが起こったり、だるくなることもあります。本当に効果的なやり方ってどんな方法なのでしょう。またマッサージには科学的な根拠はあるのでしょうか。
マッサージとは
マッサージはヨーロッパ発祥の手技療法です。皮膚に直接触れて、末梢から中心に向かってさする、揉む、おさえるなどの刺激を加えます。静脈やリンパの流れを改善し、その流れを促進する効果があるとされています[1]。
日本では厚生労働省が認可する「あん摩マッサージ指圧師」という資格があります。専門の教育カリキュラムを経て、国家試験に合格した人が取得できる資格です。
日本において、顧客に対して「マッサージ」という名称の施術ができるのは、
- 医師
- あん摩マッサージ指圧師
- 理学療法士(医師の指示にもとづく場合)
のみになります。
マッサージの種類
代表的なものは「あん摩マッサージ指圧師」の資格保有者による医療類似行為としてのマッサージで、保険の適応にもなる施術です。しかしながら世の中に「マッサージ」という表現が用いられているものはとてもたくさんあります。
- クイックマッサージ
- スポーツマッサージ
- アロママッサージ
- エステマッサージ
- リンパマッサージ
- ベビーマッサージ
などなど……。
各マッサージは慰安や美容のためのサービスとしての側面が強く、医療行為とは一線を画しています。前述したように、マッサージという名称で施術をおこなえるのは国家資格保有者のみです。
あまり好ましくない情報ですが、厚生労働省の報告によると、全国消費者生活ネットワークシステム(PIO-NET) には、手技による医業類似行為(マッサージ含む)に関する相談やクレームが、2007年度以降の約5年間で4,330件寄せられています。そのうち、手技による医業類似行為を受けた後に、なんらかの身体症状が発生したという危害相談は825件にのぼり、その件数は今も増加傾向にあるとのことです[2]。
これらのマッサージ類似行為をおこなうお店は、国家資格がなくても開業できる業種です。民間団体の整体師としての資格だったり、団体独自の講習を経て発行される資格もあります。
中にはスタッフが国家資格保有者の場合もありますので、施術者の資格について気軽に聞いてみましょう。やはり医療の専門知識を持った人に施術を受けるほうが安心ですよね。
あん摩・マッサージ・指圧の違い
- あん摩
- マッサージ
- 指圧
と一括りになっていますが、実際はなにがどう違うのでしょうか。それぞれの成り立ちと違いについて説明します。
あん摩
中国が発祥の手技で、古くに日本に伝わりました。
「按摩」とも表記され、「按」には「おさえる」、「摩」には「さする」という意味があります。つまり「おさえて、さする」のがあん摩です。施術の方向が中心から末端へというのも特徴です。
マッサージ
マッサージはヨーロッパで生まれ、明治以降に日本に持ち込まれたものです。あん摩やマッサージとの違いは、皮膚に直接触れること。そして末端から中心方向へという施術の特徴があります。
指圧
指圧はあん摩と導引(もみほぐし)、柔道の技術である(活法)を組み合わせて、大正時代に体系づけられた日本独自の施術法です。指や手の平を用いて、一点に集中して圧を加えるという特徴があります。
マッサージの科学的根拠
やってもらったら気持ちいいし、ちょっと強かったら身体に揉み返しがくることは、マッサージを受けたことがある方なら経験済みではないでしょうか。
身体に反応が起こっていることは間違いないし、実感として楽にもなるけど、実際は根拠がある行為なのでしょうか。もちろん「あん摩マッサージ指圧師」という資格があり、専門家の施術は言わずもがなですが、「もみほぐし」や「リラクゼーション」のサービスを中心にしたお店で受けるものや、自分でおこなうマッサージなどはどうなのでしょう?
その辺りの疑問を踏まえ、研究や論文をもとにマッサージを紐解いていきましょう。
マッサージに関するさまざまな研究と報告
身体には刺激を受け取るセンサーがあります。
皮膚や真皮などの表層部には「触圧覚」という受容器(センサー)が存在し、筋肉には「筋紡錘」や「ゴルジ腱器官」という筋肉の長さや張力を感知する受容器(センサー)があります。それぞれのセンサーが受け取った情報は、神経を介して脳に伝えられ、その結果として身体が起こす反応が変わるという仕組みです。
つまり同じ「触れる」という行動でも、情報の受け取り方によってまったく違う結果になるのです。
たとえば、街で知らない人にいきなり腕を掴まれたら、当然身体は拒絶しますよね?反対に、信頼できる人に触れてもらえば、心身共に安らぐことになります。
触圧覚刺激法・深部リンパマッサージ
身体のセンサーは皮膚と筋肉に多く存在します。そのうち、皮膚のセンサーは少しの刺激で身体を変化させる力を持っています。
この力を活用した「触圧覚刺激法」というテクニックは、リハビリの専門家である理学療法士を中心におこなわれているケア方法です。
ある研究では、ある部位に触圧覚刺激を加えることにより、健常者の関節において関節角度の増加が生じ、反応に持続性(平均20時間) があると報告されています[3]。
つまり「直接触れて、軽く圧を加えると、一定時間は筋肉の緊張が和らぐ」のです。ちなみにこの実験では、「沈み込み」を感じる程度の圧を加えると表現されています。つまりは筋肉に触れて、センサーに働きかけさえすれば、皮膚や筋肉が「少し沈む程度の軽い力」でも十分に効果があることを示唆しています。
図1:皮膚にある感覚受容器
また関節の可動域(身体の柔軟性)が低下する要因は、その組織内の圧力(内圧)が高まることにあります。
内部にリンパ液が滞ることで、内側の圧力が上がってきます。真皮や筋膜、被包筋膜などの組織には、図1で示したようなセンサーが多数存在しているのです。
別の研究では、前述した「触圧覚刺激法」や「深部リンパマッサージ」を用いて受容器に働きかけることが、組織の内圧を減少させ、可動域の向上に有用という報告もあります[4]。
スポーツマッサージ
スポーツの現場においては、有資格者トレーナーによるスポーツマッサージがおこなわれています。
たとえば競技開始前には短時間(3~5分間)、比較的速いテンポでの軽擦や揉捻を用いて筋肉を興奮させたり、競技後はゆっくりと時間をかけてマッサージをして、筋肉の緊張と精神的興奮を鎮静させるように使い分けられています[5]。
これは一流アスリートのコンディショニングにも用いられる方法です。
ベビーマッサージ
また母親が生後3か月の赤ちゃんに対して、一か月間毎日ベビーマッサージをおこなった後、母親の心理的ストレス(POMS※1)が軽減するという報告もあります[6]。マッサージをされている側ではなく、マッサージをする側も、触れることで心がリラックスできることが示唆されます。
このように皮膚をさすったり、かるく圧迫するようなマッサージは身体の組織の反応を引き出します。そして、
- 筋緊張の緩和
- 可動域の向上
- 内圧の低下
- 心理的なストレスの緩和
など、さまざまな効果をもたらすという研究結果は数多く報告されています。
※1 POMS:「緊張」「抑うつ」「怒り」「活気」「疲労」「混乱」の6つの尺度から気分や感情を測定する検査方法
まとめ
マッサージにはさまざまな種類と方法があり、今回ご紹介しきれなかったものもまだまだ存在します。どんなマッサージであれ、身体によい効果をもたらすためには、施術者の力量が問われます。
もちろん、信頼関係のある中で労りや感謝の気持ちを持っておこなうマッサージほど「心地よい」ものはないのかもしれません。
一方で、もしマッサージを仕事にしているならば、「なぜ、これをやる必要があるのか?」という視点を持ち、施術にあたることが非常に重要です。やみくもに強く揉むとか、全身くまなくマッサージすることはできますが、それでは本当の意味でリラックスしてもらうことにはつながりにくいです。
血液やリンパが滞ると身体には不調が起こってしまいます。常に循環させて、新陳代謝をよくしておくことが健康を保つ秘訣です。
マッサージに関わる人も決して思いあがることなく、常に最新の知見とマッサージのテクニックを学ぶことで、思考と技術をアップデートし続けなければいけませんね。
参考文献
1. 医道の日本社. マッサージ、あん摩、指圧。どう違うの?. 閲覧2020-07-07, https://www.idononippon.com/information/about/massage01.html
2. 独立行政法人 国民生活センター. 手技による医業類似行為の危害
-整体、カイロプラクティック、マッサージ等で重症事例も-
3. 小林孝誌. (1995). 触圧覚刺激法 (皮膚抑制刺激法). 理学療法学, 22(6), 374-379.
4. 小林孝誌. (2007). 浅層リンパ浮腫と筋スパズムによる関節可動域制限への触圧覚刺激法. 理学療法の歩み, 18(1), 14-21.
5. 星虎男. (2011). スポーツマッサージ: スポーツマンの障害の予防と記録の向上のために. 医療保健学研究: つくば国際大学紀要, 2, 1-19.
6. 田中弥生, 能町しのぶ, & 渡邊浩子. (2014). 1 ヵ月間のベビーマッサージが母親の自律神経活動と心理状態にもたらす効果の検証. 母性衛生, 55(1), 111-119.