肉離れのQ&A!治療法と予防法について
「ブチッ!……あ~やっちゃった……。」
肉離れになった経験はありますか?この記事をご覧いただいているということは、「肉離れを起こしてしまった」もしくは「何度か肉離れを経験していて、クセになりそうで怖い」という方が多いのではないでしょうか。
肉離れになってしまうと、激しい痛みと共に動きの制限が強くなり、とても不快ですよね。少しでも不安をやわらげて、快方に向かうには、正しい知識のもとに適切な処置をすることがポイントです。
こちらの記事では、肉離れの受傷からの流れを時系列でまとめてご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
肉離れの治療法
肉離れのようなケガはスポーツの現場でよく起こりますが、すぐ近くにドクターがいたり、近隣に医療機関があることの方が少ないと思います。
痛めてしまったとき、まずはどう対応するべきなのかを解説していきます。
受傷~応急処置
肉離れと疑わしい症状になった場合、適切なのは直ちにその競技をストップすることです。自分で移動できる場合はゆっくりと安全な場所に移動し、安静にしましょう。歩けないような場合は人の肩を借りたり、担架を使うのも有効です。
運動をしていない場合であっても、その原因になった活動(重いものを運ぶ、持ち上げるなど)を休止して様子をみます。肉離れの度合いは別のコラムで解説しましたので、そちらの詳細をご覧ください。
そのあとは、応急処置に移ります。基本の「RICE処置」をおこないましょう。
Rest(安静)
患部に負担がかからない姿勢を取り、安静にします。
痛い部分が伸ばされるような姿勢は避けましょう。肉離れは下半身の筋肉で起こりやすいです。体重がかからないように寝ころんだり、座ったり、痛みの状態に見合った体勢を取るようにしてください。
Icing(冷却)
痛みを抑えるためには「冷やす」ことが有効です。
氷のうやジップ付きのビニール袋に氷を入れて、患部を冷やします。15~20分を目安に冷やします。ふくらはぎなどであれば、バケツに氷水をいれて、足を冷やすのもよいでしょう。
急性期(受傷後~48時間程度)はアイシングで筋肉の温度を下げて、炎症物質による痛みを抑えていきます。(カチカチに凍った保冷剤は冷たすぎるので低温やけどのリスクがあります)
基本的には急性期に「温めることはNG」です。炎症の5大兆候として、
- 疼痛
- 熱感
- 腫脹
- 発赤
- 機能障害
が挙げられます。痛みがあり、腫れて熱をもっているので、温めるとそれらを加速させてしまいます。
Compression(圧迫)
痛みがきつい場合は、伸縮性のある包帯で軽く患部を締めて「圧迫」するのもよいでしょう。適度に血流を制限してくれるので、痛みや不快感の軽減になります。
ただし、あくまでも軽く圧迫する程度にして、うっ血しないように注意が必要です。
Elevation(挙上)
患部を少し高い位置(挙上)にあげることで、痛みがやわらぐという方法もあります。
可能であればベンチや段差などに足をあげて、血流を制限したり、炎症後の老廃物や代謝物質を、回収しやすくする姿勢を心がけましょう。
医療機関の受診
応急処置を済ませたら、できるだけ早めに専門の医療機関を受診しましょう。医療機関までの移動は身体の負担を考え、労力の少ない車やタクシーを利用するとよいでしょう。
まずは整形外科を受診し、検査によってケガの程度を診断してもらいましょう。MRIなどの画像診断により、組織の損傷具合を詳細に把握することが重要です。ここが抜け落ちると、回復に至るおおよその期間の見通しが立ちにくく、リハビリの詳細な計画を立てることも難しくなります。
どうしても病院にいけない場合は、整骨院(接骨院)や鍼灸院などの国家資格を持った医療従事者がいる機関も選択肢にいれてみましょう。微弱電流治療や鍼灸治療は回復までの治癒を早めるという研究報告があります[1][2]。
自分に合った治療法を選択して、早期復帰への道筋を立てましょう。
回復までのリハビリ
急性期が終われば、痛みや腫れ、内出血も落ち着いてくるころです。おおよそ1週間程度で歩行が可能になってくることが多いので、そこからが本番です。
この時期の適切なリハビリが、回復までの良好な経過と復帰後の再発予防につながります。順を追ってご紹介します。
歩くことができる(受傷後~1週間)
患部に負担がかからないように、ハムストリングスやふくらはぎのストレッチングを軽くおこないます。太ももの前を痛めた場合は「大腿四頭筋」を伸ばしましょう。ムリは禁物ですよ。
圧痛がなくなる( 受傷後~3週間)
軽いジョギングから徐々に運動を再開しましょう。
はじめのうちは、患部に硬結(組織のかたまり)が残りやすい状態です。この硬結が残っているときに、強度の高い運動をすると再受傷するリスクが高いので、ダッシュは全力の50%程度に留めます。
100%の力での「ジャンプ」「ダッシュ」は約6週間(40日程度)休止とします。
動作の痛みが治まる(3週間~)
運動時の痛みが治まってきたら、予防を目的としたトレーニングが大切です。患部とその周辺を中心に、関節の可動域や筋肉の柔軟性を回復させるためのストレッチ、軽い負荷での筋力トレーニングをとりいれます。
ウェイトの負荷は、通常おこなっているトレーニングの50%程度を目安にしましょう。ウェイトトレーニングをおこなっていない方は、筋力トレーニングの全体のボリュームを半分ほどにおさえましょう。
痛みや違和感がなくなる(6週間~)
約6週間(40日程度)経過して、ふくらはぎのストレッチやつま先立ち、軽い両足ジャンプなどをおこなっても患部の疼痛や違和感がなくなっていれば、取り組んでいるスポーツを徐々に再開しましょう。
ポイントはウォーミングアップを入念におこなうこと。筋肉の温度が上がり、柔軟性が向上すると、血行がよくなります。コンディションの整った筋肉は患部にかかる負担も軽減してくれます。
練習後は少し熱をもったり、筋肉のハリがでやすくなりますので、患部を15分ほどアイシングして、疲労の原因を取り除いておきましょう。
治療期間中に自宅でできること
急性期(受傷後~48時間)
- 安静にする
- 定期的にアイシングをする
基本は先ほどおこなったRICE処置の継続です。急性期は炎症を極力抑えられるように、じっと耐える時期です。お酒を飲んだり、お風呂に入ると血行がよくなり、炎症が進んでしまいますので、控えましょう。
急性期~慢性期(共通)
- 栄養のあるものを食べる
- 睡眠時間を確保する
- お風呂につかる
- ストレッチをする
- 普段の練習を見直す
この時期は身体を早期に回復へ導くために、生活習慣を整え、良質な栄養と休養をとることがとても重要です。筋肉のもとになるタンパク質を中心にしたバランスのよい食事をとって、お風呂にゆっくりと浸かったり、一定の睡眠時間を確保しましょう。
医師や専門機関から指導されたストレッチやトレーニングなどのリハビリを、自分のできる範囲で実践するのもよいでしょう。
おもいきり運動ができない時期はストレスがたまりますよね。ついつい暴飲暴食や夜更かしたくなる気持ちもわかります。しかし不規則な生活習慣は自律神経のリズムを乱し、体調を崩しやすくなります。
一番大切な「いち早い回復」が遅れることにつながりますので、控えましょう。
肉離れの予防法
肉離れの予防については、別コラムでも取り上げた「内的要因」と「外的要因」に分けて考えましょう。自分でコントロールできることが「内的要因」。コントロールできないことが「外的要因」と考えていただくとよいかと思います。
とくに自分の身体については、十分な準備とケアをすることで筋肉にかかる負担を軽減できますので、以下の内容を参考にしてみてください。
内的要因
運動前
- 十分なウォーミングアップで筋肉や関節の可動域を広げる
- 筋肉のバランスを整えるトレーニングをする
- フォームの見直しをする
- 補給食の見直しをする
別コラムでもご紹介したように、ケガのリスクを避けるには筋肉の温度を十分にあげておくことが大切です。面倒かもしれませんが、運動前のウォーミングアップには人一倍気を遣いましょう。具体的にはジョギングやダイナミクストレッチをおこなって、身体を徐々に運動モードに切り替えていきます。
また筋肉のアンバランスが肉離れのリスクを高めることもわかっています[3]。太ももの裏にある「ハムストリングス」を鍛えておくことで、肉離れを予防する効果があります。
フォームに関しては自分の動きを確認できる映像をみたり、指導者に相談して意見交換をしましょう。個人でおこなうスポーツに取り組んでいる方は、専門のパーソナルトレーナーに指導を受けるのもよいでしょう。
意外とないがしろにされているのは、運動前、運動中、運動後の食事やドリンクです。激しい運動の際には筋肉に細かい損傷が起こります。ハードな運動を持続するための身体の回復時には、何を隠そう「栄養の力」の補給が大切です。
エネルギーになる糖質を事前に補給したり、運動中は吸収がスムーズなアミノ酸やミネラルが豊富に含まれたドリンクをとるようにして、身体をサポートしましょう。
運動後
- 入念にクールダウンをおこない筋肉の疲労を軽減する
- 運動後にすみやかに栄養を補給する
- 疲労回復のため、入浴と睡眠の時間を確保する
筋肉は激しい運動の後、大きなダメージを負っています。運動による細かい組織の損傷に加えて、運動の過程で発生する活性酸素や老廃物が疲労の原因であるとされています。
クールダウンにしっかりと時間を割くことで、筋肉の緊張をほぐし、血行をよくすれば、疲労の原因になる物質も排出されやすくなるのです。ウォーミングアップ同様、面倒な行程かもしれませんが、とても大切な意味を持ちます。
運動後のコンディションのために、素早くにタンパク質と糖質を補給しましょう。タンパク質はプロテインから、糖質は果物から。といったように運動後でも摂取しやすいものを選びましょう。
帰宅後はお風呂でしっかりと温まって血行をよくしたり、睡眠時間を確保して回復につとめましょう。
外的要因
天候やスポーツの会場のコンディションは自分ではコントロールしづらいものです。自分でできる範囲だと、雨の日用のシューズを準備したり、いつも使っているシューズの靴底が擦り減っていないかをチェックすることでしょう。まさに「備えあれば憂いなし」ですね。
他には、個人競技やチーム競技に関わらず、試合までの練習スケジュールや練習の内容、休日のタイミングを見直すなど、コンディションを整えるためのピーキング※1、テーパリング※2について知識を深めるのもよいでしょう。
※1 ピーキング:目標とする試合にベストの状態で臨めるように、コンディションを上げる調整をすること
※2 テーパリング:徐々に練習・トレーニングの量や頻度を減らしていくこと
まとめ
ケガはできれば経験したくないことです。
しかし日常の中で見過ごしていた身体のケアや、自分の身体の弱点について考えたり、練習内容についての素朴な疑問を見つめなおして、ケガ以前よりもパフォーマンスの高い身体を手に入れるための大切な「転換期」になります。
受傷直後から、回復に至るまでは冷静な判断と的確な診断が必要になります。「ただでは起き上がらないぞ」という意識をもって、慎重かつ適切に対応しましょう。
参考文献
1. 西浦友香, 大野善隆, 藤谷博人, & 後藤勝正. (2011). 微弱電流によるタンパク合成系シグナル伝達の活性化と損傷骨格筋の回復促進に関する基礎的研究. In 理学療法学 Supplement Vol. 38 Suppl. No. 2 (第 46 回日本理学療法学術大会 抄録集) (pp. AbPI2038-AbPI2038). 公益社団法人 日本理学療法士協会.
2. Zhu, J., Arsovska, B., Kozovska, K., Nikolovska, E., & Arsova, D. (2017). Acupuncture treatment for hamstring muscle group injury.
3. Freckleton, G., & Pizzari, T. (2013). Risk factors for hamstring muscle strain injury in sport: a systematic review and meta-analysis. British journal of sports medicine, 47(6), 351-358.