ストレッチの目的と効果を知ろう
「ストレッチ」
誰もが一度はその言葉を聞いたことがあり、実際にやったことがあるのではないでしょうか。
それではいったいストレッチとはなんなのか、あらためて基本的なポイントを踏まえて、皆さまにお伝えします。
ストレッチとは?
「ストレッチ」は1960年代から1970年代にかけて、アメリカのスポーツ分野を中心に急速に広まりました。
“strech”という単語は日本語で“引き伸ばす(引っ張る)”という意味です。ストレッチにより筋肉を引っ張り、伸ばして柔軟性を高めることで関節の可動域が広がります。
ストレッチの目的
それではまず、ストレッチの目的から整理しましょう。目的は大きく分けて以下の7つになります。
1.筋肉の柔軟性を高める
硬くなった筋肉を伸ばすと、「身体のセンサー」である受容器が筋肉の長さや張力の変化を感知して脳に情報を伝えます。実はストレッチは脳に働きかける運動なのです。
脳と筋肉は運動神経を介して繋がっています。「筋紡錘(きんぼうすい)」「ゴルジ腱器官」の2つの受容器が大きな役割を果たします。
- 脳から筋肉に運動の指令を伝える
- 「筋紡錘」は筋肉の長さの変化を検知し、脳に伝える
- 「ゴルジ腱器官」は筋肉と腱に加わる張力を検知し、脳に伝える
- 再び、脳から筋肉に運動の指令を伝える
このサイクルが繰り返されることにより、身体が柔軟性を獲得することができるのです。
2.関節可動域を向上させる
筋肉が柔軟性を取り戻すと、今度は関節の動きが変わります。
筋肉の末端は「腱」「腱膜」となり骨に付着し、骨を引っ張り動かすことで関節は動きます。筋肉のしなやかな運動が、ひいては関節のスムーズな動きに結びつくのです。
3.怪我や痛みの予防をする
筋肉や関節の動きがスムーズになると、身体の動作が向上し安定します。
動作の制限や不安定性から筋肉や関節に過度な負担がかかり、怪我や痛みのリスクにつながります。ストレッチはこれらのリスクをなるべく軽減させる、大切な役割を担っているのです。
4.スポーツのパフォーマンスアップ
動きの向上に伴い、怪我や痛みの予防にもつながります。
質の高い動きは、自然とスポーツにおけるパフォーマンスアップにつながります。自分の体を思うように動かすことは、当たり前のようでとても難しいです。「高いレベルの技術は、思うように動く体があってこそ」初めて身につきます。
5.血液の循環を改善し、老廃物を排出する
柔らかくしなやかな筋肉は、その機能を存分に発揮します。
筋肉の重要な役割の一つ、それは血液や組織液の循環を後押しすることです。筋肉の収縮作用で静脈やリンパ液の循環が促進され、代謝後の二酸化炭素や老廃物を体外に排出しやすくします。
6.身体を緊張から解放し、リラックスさせる
ストレッチは脳へ働きかける運動と前述しました。
脳や脊髄には自律神経の「司令塔」である中枢が存在しています。その中枢が筋肉の緊張度合いによって交感神経(ストレス神経)、副交感神経(リラックス神経)の切り替えを行います。
ストレッチにより血管が広がることで、リラックスするときに働く副交感神経が作用し、緊張からの解放へとつながるのです。
7.筋肉の萎縮や不全の抑制
筋肉は動かさないとその機能が低下し、萎縮(筋肉が痩せてしまうこと)してしまいます。ベッドで寝たきりになったり、怪我をした方の足が細くなるという状態を見たことはありませんか?
これらは運動が苦手な方でも、ストレッチくらいの軽い運動から始めることで予防できます。
1~7の項目は、すべて身体の機能を維持、向上するためのものです。ストレッチをしないと、人が元々持っている自然な働きが奪われてしまいます。
心と身体が過度にストレスを感じることなく、しっかりと動けるように整える運動が「ストレッチ」なのです。
ストレッチに期待できる効果
それではストレッチに期待できる効果は、いったいどのようなものがあるのでしょうか?こちらは上記の目的と深く関連します。「カラダとココロ」2つの分野で考えてみましょう。
カラダへの効果①
- 筋肉の柔軟性が高まる
- 関節の動きが広がる
- 動きの質が向上する
- パフォーマンスアップ・怪我や痛みの予防
カラダへの効果②
- 筋肉の柔軟性が高まる
- 筋肉の萎縮、不全を抑制
- 筋力、筋量の低下を予防
- 生活の質(QOL)を維持
ココロへの効果③
自律神経は、
- 筋肉や血管の状態
- 呼吸数
- 心拍数
- 血圧
などの状態と密接に繋がっています。
- 筋肉の柔軟性が高まる
- 緊張から解放され、交感神経(ストレス神経)がOFF、ストレスホルモン分泌抑制
- 末梢の血管が拡張し、心拍数と呼吸数減少、副交感神経(リラックス神経)がON
- リラクゼーション効果、脳のストレス軽減
特に筋肉の緊張、弛緩を利用した漸進的筋弛緩法というストレッチ方法があります。イギリスの内科・精神科医であり生理学者のエドモンド・ジェイコブソンが開発した方法です[1]。
現在ではガン患者の心身へのケアで用いられたり、企業の社員のメンタルケアを担当する産業医も取り入れている方法です[2]。また数多くの研究結果なども報告されています。
これを応用した方法でホールド&リラックスというやり方があります。
- 10秒間、筋肉に力を入れる
- 15~20秒間脱力する
を繰り返して、筋肉を緩ませるという方法です。ペアストレッチなどでは非常に取り入れやすい内容だと思いますので、是非参考にしてみてください。
いかがでしょうか。
このようにカラダとココロの両方に良い効果をもたらすストレッチ。「やらないともったいない!」そう思いませんか?
まとめ
知っているようで知らないストレッチのあれこれ。
こちらの記事ではストレッチの基本的な内容を中心にお送りしました。ストレッチをすることで得られるメリットよりも、やらないことで起こるデメリットの方が圧倒的に大きいです。
日々頑張る自分の体を労わってケアするために、ストレッチを生活習慣にしてみませんか。皆さまにとって、少しでも役に立つ情報になれば幸いです。
参考文献
1. Hashim, H. A., Hanafi, H., & Yusof, A. (2011). The effects of progressive muscle relaxation and autogenic relaxation on young soccer players’ mood states. Asian journal of sports medicine, 2(2), 99.
2. 近藤由香. (2008). がん患者に対する漸進的筋弛緩法の継続介入の効果に関する研究. 日本がん看護学会誌, 22(1), 86-97.