外反母趾とは?原因と予防・対策について
皆さまはご自身に合った靴を選べていますか?
現代人は靴やサンダルなど、履物との関係は切っても切れませんよね。最近では「#kutoo(クートゥー)」といって、日本の女性が「職場でヒールやパンプスの着用を義務付けられていること」に対する抗議活動がおこなわれたりもしました。もちろん性差別に対する抗議という観点もありますが、履きものによって起こる足のトラブルに悩む方も多いのが事実です。
今回のコラムでは、足のトラブルにおける代表的な存在「外反母趾」について解説していきます。
外反母趾とは
足の親指(第1趾/母趾)が、第2趾の方向に「く」の字に曲がっている状態(外反)を「外反母趾」といいます。
内側の指の付け根が靴に当たり、関節が炎症を起こし、痛みにつながるのです。酷くなると靴を履いていなくても痛むことがあります。
「外反母趾」は靴の歴史が長い欧米人に多い症状でした。しかし日本人も靴を履くことが多くなり、症状に悩む方が増えてきました。あるシューズメーカーの調査では、50歳~70歳代の日本人女性は30%が外反母趾で悩んでいるとの報告もあります[1]。
外反母趾の程度は、「外反母趾診療ガイドライン2014改訂第2版」によると、外反母趾角(Hallux vaigus angle:HV角)と呼ばれる基準があり、これは母趾付け根の骨とそのすぐ下に位置する中足骨という骨の軸が交差する角度で、母趾の外反変形の程度を評価する指標です[2]。
正常値 | 軽症 | 中等症 | 重症 |
---|---|---|---|
9度~15度 | 20度未満 | 20度~40度 | 40度以上 |
外反母趾は進行性の症状で、対策をしないと自然治癒することはありません。関節の変形が徐々に進み、重症化してしまう可能性もあります。自分が外反母趾かもしれないなと思ったら、まずは専門の医療機関に相談しましょう。
外反母趾になる原因
日本人が「靴を履く」ようになってからしばらく経ちます。実はこれも外反母趾の大きな要素のひとつです。外反母趾になる方の多くは中高年の女性です。たとえ10代であったとしても、条件が重なると、外反母趾になってしまうこともあります。
では、それぞれ原因別に整理してみましょう。
遺伝的要因
足の形は大きく分けて3種類に分類されます。「エジプト型」「ギリシャ型」「スクエア型」です。
第2趾(足の人差し指)よりも母趾のほうが長い形をエジプト型。母趾よりも第2趾のほうが長い形をギリシャ型。母趾と第2趾が同じ長さの形をスクエア型(正方形型)といい、日本人の場合は「エジプト型:ギリシャ型:スクエア型=75%:15%:10%」の比率であるといわれています[3]。
とくにエジプト型の場合、母趾に重心が乗りやすい傾向にあります。歩く際は小趾側から着地して母趾球、母趾と重心が変化。最も長い母趾側に体重が乗りやすく、外側からの重心移動が大きくなり、ねじれを生みます。このねじれにより関節に大きな負担がかかるのです。
足のアーチ
足には土踏まずの辺りに縦アーチ2本と横アーチ1本があります。地面からの衝撃吸収をするクッション、前への推進力を生むバネ、重心のバランスコントロールの3つの役割を担うのです。
これらは主に足趾を動かすための筋肉で構成されており、足趾の筋肉がうまく機能しないとアーチが崩れます。縦アーチの消失は「偏平足」、横アーチの消失は「開帳足」と呼ばれます。
足のアーチ本来の役割が果たせなくなることで、足趾の関節にかかる負担が大きくなり、変形が進んでしまうのです。
肥満
立ったり、座ったりしているとき、足は唯一地面と接しており、両足で自分の体重を支えています。外反母趾の大きな要因は足趾の付け根に負担がかかることです。肥満による過体重は、歩く際の一歩一歩、階段の上り下りなど、日常生活すべての動作が関節への過度な負担につながります。
筋力低下
中年期以降は意識して運動をしないと筋力低下が進みやすいです。
外反母趾になる方が多い年代であり、運動不足による筋力低下も外反母趾の要因のひとつとしてあげられます。
とくに体幹部分や下半身の筋力低下は、姿勢を保持するための筋肉が多く、筋力の低下は悪い姿勢をもたらします。この悪い姿勢により、かかと重心になってしまうことで、足趾が浮き指状態になってしまうのです。足趾を使えないと、足趾の筋力低下にもつながり、アーチが低下して、外反母趾を助長するという悪循環になってしまいます。
外反母趾の対策
ここまで外反母趾になる原因を挙げてきました。複雑な要素が絡み合い外反母趾になってしまうことがわかりました。それでは外反母趾になってしまった場合どうすればよいのでしょうか。
治療の対策を「外反母趾診療ガイドライン2014改訂第2版」の内容に沿って、種類別にご紹介します。
保存療法
保存療法は今の症状を軽快、もしくは悪化しないように維持するための療法です。外科手術を伴わず、簡単な運動と補助装具を用います。
運動療法
運動療法は外反母趾に関わる筋肉をトレーニングすることで、症状を緩和、維持する療法です。軽度から中等症の範囲であれば、変形を矯正したり、疼痛を緩和する一定の効果が期待できると発表されています[2]。
Hohman(ホーマン)運動
- 母趾にゴムバンドをかけた状態で、ゴムバンドを外側に引っ張ります。
- 母趾同士を離すように開き、5秒~10秒保持します。
- 1セット30回を目安に1日3セットおこないましょう。
足趾を外側に矯正する方向に負荷がかかる運動で、関節の矯正と痛みの軽減に若干の効果が期待できます。
グーパー運動(母趾外転筋運動)
- 足趾でグーパーをしましょう。可能な範囲で指を丸めたり、開いたりしましょう。
- 1セット30回、1日3セットおこないましょう。
グーパー運動も若干の関節矯正と疼痛の緩和が期待できます。足趾の間にある「骨間筋」を刺激して、足裏のアーチを保ったり、足趾の動きを促す体操です。
装具療法
装具療法は外反母趾の痛みを抑制するパッドや夜間や安静時に試用する矯正装具、歩行などの不安定性を抑制する足底挿板(インソール)が装具の代表です。
軽度から中程度の変形に関する痛みは、装具着用中は軽減できます。しかし着用を中止すると、その効果はなくなると示されています。また変形を抑制する目的の場合、装具着用中はHV角において3度~7度の矯正効果があると報告されています[2]。
手術療法
手術は最終手段
軽度から中等度の外反母趾は、運動や装具による矯正や除痛効果が期待できます。重度の変形で歩行時の疼痛を伴う症状は、手術療法が適応されます。
これまでの手術は150以上の方法でおこなわれてきました。根拠に乏しい手術法を精査するために、2008年にガイドラインが制定されました。現在では2014年に第2版が刊行されています。
骨切り術
もっとも多い例は「骨切り術」といい、中足骨の一部を切除して角度を矯正する方法です。一般的には腰痛麻酔か局所麻酔を用いて、1時間程度で終わり、翌日から歩行が可能なようです[4]。
外反母趾の手術は、
- 変形の度合い
- 足全体の形
- 体重
- 年齢
- 合併症の有無
- 仕事内容
- 入院可能な日数
などを考慮の上で決定します。もしもご検討されている方は、手術によるメリットとデメリットを確認し、納得して望めるように、必ず専門の医師に説明を受けるようにしましょう。
外反母趾の予防・対策
ここからは外反母趾になってしまわないようにするため、また外反母趾になってしまった後に悪化させないための予防・対策法をご紹介します。内的要因の筋肉強化と、外的要因の靴選びについて見ていきましょう。
運動
筋力低下による重心の変化や、関節を保持安定させる能力の低下により、母趾にかかる負担が増えることは前述しました。日常生活の中で簡単に取り組めるシンプルな予防体操を3つご紹介します。
1. タオルギャザー
タオルを使って、細かい足趾周辺の筋肉を強化します。
①床にタオルを敷く(フェイスタオルでOK)
②両足をタオルの端っこに乗せます。
③足趾を使ってタオルを握りながら、手前にたぐり寄せます。
④タオルを端までたぐり寄せたら、広げて元に戻します。
⑤5セット繰り返しましょう。
はじめは足趾が使いづらく、タオルを握るのが難しいかもしれません。ムリにすると足がつったりしますので、気を付けて可能な範囲でおこないましょう。セット数は徐々に増やすのがおススメです。
2. 足指ジャンケン
文字通り、足趾を使ってジャンケンをします。
①足の指を丸めて「グー」の形にします。
②第1趾を手前に残りは奥にして「チョキ」の形にします。
③第1趾を奥に、残りは手前にして「チョキ②」の形にします。
④足指全体を伸ばして開き「パー」の形にします。
⑤グー、チョキ、チョキ2、パーと5秒ずつキープ。5セットおこないましょう。
3. つま先立ち
ふくらはぎのトレーニングも足裏のアーチを整えたり、足趾を使って立つことでかかと中心の重心がつま先荷重になり、筋肉が使いやすくなります。
①背筋を伸ばして立ち、足は腰から肩幅にして立ちましょう。
②壁などに手をついてバランスをとり、安定させましょう。
③足趾をしっかりと伸ばし、かかとを上げてつま先立ちになります。
④できる限り背伸びをするようにしたら、ゆっくりとかかとを下ろします。
⑤10回を3セットおこないましょう。
靴選び
トレーニングで足をケアするのと同時に、日常生活で履く靴にも留意したいところです。外反母趾になりやすい条件から逆算し、ご自身の足に合った履物を選ぶようにしましょう。
- 前足部に適度なゆとりがある(先の細い靴を避ける)
- 歩行時の重心移動がスムーズである(極端なヒールや底が平らな形状は避ける)
- 足裏のアーチをサポートするような形状である(平らな中敷きは避ける)
- サンダルは鼻緒のついたものを選ぶようにする(足趾が浮くようなものは避ける)
まとめ
外反母趾はライフスタイルの変化によりあらわれた「現代病」といえるでしょう。
遺伝的な要因が背景にある例もありますが、大半は日常生活の積み重ねにより、関節に起こる症状です。職場の環境や生活習慣でやむを得ないこともありますが、抗議活動までおこなわれるようになった足のトラブル。大手航空会社も制服の基準を見直すなど、それを取り巻く環境も社会的な変化を遂げています。
生涯にわたって美しく、健康に歩けるようにしたいですよね。皆さまも、この機会に自分の足を見つめなおしてみませんか?
参考文献
1. 株式会社ムーンスター. シニア女性の約4割が外反母趾など足の変形に悩んでいるという調査結果. 閲覧2020-10-01, https://www.moonstar.co.jp/corporate/news/archive/4-20148.html
2. 日本整形外科学会診療ガイドライン委員会,外反母趾診療ガイドライン策定委員会編著(2014)『外反母趾診療ガイドライン2014改訂第2版』日本整形外科学会・日本足の外科学会監修, 南江堂
3. OTSUKA, A., FUJITA, M., KONDO, S., KIKUTA, F., & TAKAHASHI, S. (1993). The Foot Shape of Japanese Adults from the Viewpoint of Foot Projected Contours. Journal of Home Economics of Japan, 44(5), 377-385.
4. 公益社団法人 日本整形外科学会. 「外反母趾」. 閲覧2020-10-01, https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/hallux_valgus.html