アミノ酸はダイエットに活用できる栄養素なのか?

アミノ酸にダイエット効果を期待して積極的に摂り入れているなんてことはありませんか?もし過度なダイエット効果を期待して食べている場合、残念な結果になるかもしれません。
なぜならアミノ酸のダイエット効果は証明されていないからです。食べただけで痩せる栄養素があるなら、この世に肥満やダイエットというワードは存在しないでしょう。
「えっ?アミノ酸って意味ないの?」と驚くのはまだ早いです。たしかにアミノ酸を食べただけで痩せることはほぼ不可能です。しかしアミノ酸の働きを知った上でうまく活用できればダイエットのサポートになりえるでしょう。
今回のコラムでは、アミノ酸の働きを紐解きながらアミノ酸のダイエット活用法ついて解説します。
アミノ酸とは
そもそもアミノ酸とはなんなのでしょうか?
アミノ酸とは肉や魚といったタンパク質が体内で消化された最終産物です。肉や魚などのタンパク質を食べると、消化酵素によってアミノ酸に分解。分解されたアミノ酸が腸から吸収されて、血液を介して全身で利用されます。
自然界には約500種類のアミノ酸が存在し、そのうち20種類が人間にとって必要なアミノ酸です。DNAに刻まれた遺伝情報をもとに、体内でたった20種類から約10万種類のタンパク質をつくりだし、血となり肉となり生命活動を維持しています。ただし20種類のアミノ酸のうちひとつでも欠けると身体に支障が出てしまうのです。
アミノ酸の働き
アミノ酸の体内での働きは、
- 内臓や筋肉、骨、爪、皮膚など人間をつくる材料となる
- 生命活動を維持するためのホルモンや酵素をつくる
- エネルギーとなる
アミノ酸は人間をつくる材料であり、生命活動を維持するために欠かせない栄養素です。
アミノ酸はダイエットにどう活用すべきか
生命活動に大切な栄養素であるアミノ酸。なぜそんなアミノ酸に、ダイエット効果があるといったホントのようなウソな話が広がっているのでしょうか?
ここからはアミノ酸の働きを見ていきましょう。
運動パフォーマンスの向上
人間は食べることを前提にした生物です。基本的に体内でエネルギーに変わる食べ物を分解する能力しかもっていません。よって前述したように食べただけで痩せる栄養素は存在しないのです。
健康的に痩せることの基本は食事と運動です。ダイエットにトライしているにもかかわらず、運動をムシするなんてことはご法度。リバウンドや健康を害するなど、残念な結果を導くことになってしまいます。
また食事を減らしてダイエットをする場合、アミノ酸を積極的に摂り入れても劇的な効果を発揮することは至難の技でしょう。
運動も一緒に頑張るダイエットであれば、アミノ酸の効果を発揮できるかもしれません。運動、とくに筋肉トレーニングをおこなうと、筋肉の分解が促進するために通常より多くのアミノ酸を必要とします。運動前後に十分なアミノ酸が供給されることで筋肉の分解を抑えたり、修復されることで筋肉増量や疲労回復が狙えるのです。
筋肉量がアップすると基礎代謝量が増大するため、1日の消費エネルギーがアップ。消費エネルギーが増大することで痩せやすい身体へと近づけるでしょう。
アミノ酸の中でもとくにバリン、ロイシン、イソロイシンといわれる分岐鎖アミノ酸(BCAA:branched-chain-amino acid)は、筋肉中のタンパク質の合成を促進し、速やかな筋肉のダメージからの回復に有効といわれています。
また運動時に疲労が生じる原因のひとつとして、アミン酸の一種であるトリプトファンが脳内に多く入ることが挙げられます。そのトリプトファンが脳へ入るのをブロックする働きがBCAAにあるといわれています[1]。
運動後の疲労が速やかに回復することで、次のトレーニングを円滑にできます。「運動→筋肉中のタンパク質の合成・分解→疲労回復→運動」といったサイクルにより、運動のパフォーマンスが向上。結果的にダイエットへつながるのです。
脂肪燃焼を高めるといわれるアミノ酸
アミノ酸一つひとつにも働きがあり、
- リジン
- プロリン
- アラニン
- アルギニン
は脂肪の燃焼にかかわるアミノ酸といわれています。動物実験で脂肪燃焼効果などが報告されています[2]。しかしながら人間の研究において、脂肪燃焼効果については曖昧でメカニズムがはっきりと証明されていません。
代謝回路から踏まえると下記のようなことが考えられるため、脂肪燃焼にかかわるアミノ酸といわているのではないでしょうか?
脂肪の燃焼を高めるとは、脂肪をエネルギーにかえる能力が高まることです(貯蔵している脂肪を消費すること)。体内でエネルギーが不足してくると、血糖値が下がります。このときにアラニンが作用してグルカゴンと呼ばれるホルモンが分泌されることで、脂肪と脂肪酸をグリセロールに分解する酵素(リパーゼ)がプロリンによって活性化。残念ながら脂肪酸は分解されただけではエネルギーとして利用できません。
エネルギーをつくるためには、細胞内に存在するミトコンドリア(エネルギーをつくる工場)が入らなければなりません。血液を介して細胞に到達し、このときに働くのがアルギニンです。アルギニンには血管を拡張する作用があり、脂肪酸の輸送がスムーズにおこなわれます。
そして工場に入る際にサポートするのがリジンです。工場に入った脂肪酸からATPと呼ばれるエネルギーがつくられます。※リジンやメチオニンから合成されるカルニチンも脂肪酸を工場へ運ぶサポートをおこなう
これら脂肪からエネルギーがつくられる過程をβ酸化といい、お助け役としてアミノ酸は働きます。エネルギーが不足の状態で、これらの働きはより機能します。いずれにせよ運動によるエネルギー消費が必要となるでしょう。

※これ以外にもかかわる栄養素はあります
食品からアミノ酸を摂り入れる場合、単体のアミノ酸を摂取することは少ないでしょう。肉や魚、卵といったタンパク質からアミノ酸を補給しますよね。タンパク質は消化・吸収に3時間~4時間要するため満腹感が持続します。
またタンパク質に含まれるヒスチジンから生成されるヒスタミンが満腹中枢に作用して、食欲を抑える働きがあります[3]。さらにオーストラリアの大学が発表したメタ解析の結果、ヒスチジンを摂取したグループはコントロールと比較してウエスト周囲、HbA1c※1、空腹時血糖値が低いことがわかりました[4]。
※1:ヘモグロビンにブドウ糖が結合した糖化ヘモグロビンのこと。過去1か月~2か月の平均的な血糖の状態を反映する値として糖尿病の診断に利用されている
良質なタンパク質を食べよう
アミノ酸だけ食べてもダイエットは難しいことがおわかりいただけたかと思います。ダイエットの成功はいかにして筋肉を維持しながら脂肪を燃焼するかにかかっているのではないでしょうか。またせっかく痩せるにしても綺麗に痩せたいですよね。そのためには十分なアミノ酸の補給が必要です。
私たち人間の身体をつくっているのは20種類のアミノ酸。この20種類がすべてそろっていないと人間の身体はつくれません。ダイエットで食事が偏ってしまったり、アミノ酸が不足したりすると、肌荒れや爪が割れやすくなったりと本末転倒な結果になりかねません。良質なタンパク質を摂り入れましょう。
「良質なタンパク質を食べる=アミノ酸20種類がそろっている」ことです。それでは20種類のアミノ酸が含まれる食品とはどんなものでしょうか?
肉や魚といった動物性タンパク質に主に含まれています。お米や小麦など穀類や豆類などの植物性タンパク質にも含まれていますが、動物性タンパク質ほど十分ではありません。植物性タンパク質でも、納豆や豆腐などの植物性タンパク質には肉に劣らないほどのアミノ酸が含まれています。脂質量も少なくダイエット中の副菜にオススメです。
体内では常にタンパク質の合成と分解が繰り返されており、アミノ酸は欠かせません。毎食、タンパク質食品を摂り入れるように心がけるとよいでしょう。
まとめ
アミノ酸は運動時のパフォーマンスや疲労回復、脂肪酸の燃焼にかわっていました。アミノ酸は運動しながら減量するときに手助けをしてくれる働きがあるといえるでしょう。
ただし運動もせずにアミノ酸に強い期待を寄せるのはやめましょう。アミノ酸を含むタンパク質にはしっかりカロリーがあります。食べすぎると太る原因にもなるため、自身の身体にあった量を摂り入れましょう。
そしてアミノ酸は身体を構成している栄養素であり欠かせません。ダイエットにかかわらず日々摂り入れなけばならない栄養素です。今回ご紹介したエネルギー合成の話に登場したアミノ酸や栄養素はほんの一部です。このほかにもたくさんの栄養素がかかわっています。
バランス良く栄養素を摂り入れ運動することが、健康的なダイエットの近道ではないでしょうか。
参考文献
1. Blomstrand, E. (2006). A role for branched-chain amino acids in reducing central fatigue. The Journal of nutrition, 136(2), 544S-547S.
2. Jobgen, W., Meininger, C. J., Jobgen, S. C., Li, P., Lee, M. J., Smith, S. B., … & Wu, G. (2009). Dietary L-arginine supplementation reduces white fat gain and enhances skeletal muscle and brown fat masses in diet-induced obese rats. The Journal of nutrition, 139(2), 230-237.
3. Yoshimatsu, H., Chiba, S., Tajima, D., Akehi, Y., & Sakata, T. (2002). Histidine suppresses food intake through its conversion into neuronal histamine. Experimental biology and medicine, 227(1), 63-68.
4. Menon, K., Marquina, C., Liew, D., Mousa, A., & de Courten, B. (2020). Histidine‐containing dipeptides reduce central obesity and improve glycaemic outcomes: A systematic review and meta‐analysis of randomized controlled trials. Obesity Reviews, 21(3), e12975.