筋トレは毎日やってもいいのか?トレーニングの原理・原則から考える
一念発起して、筋トレをはじめてみたものの……。「週何回、どれくらいやったらいいの?」と疑問を持った方も多いのでは?
「早く効果を実感したいのなら、気合を入れて毎日できるだけたくさんやるべきだ」「いやいや、休養も肝心。週1~2回20分くらいが丁度いいんじゃない?」と考え方はヒトそれぞれ。
筋肉や筋力は焦るほど簡単には手に入らず、また適当に楽をして手に入るものでもありません。当然、カラダの大きさや年齢、性別、遺伝的体質などの要素による成長度合いの個人差はあります。
しかしながら普遍的な原理原則は存在し、そのベースを守ってコツコツと積み上げれば必ず「自分自身のカラダに起こる変化」に気付くハズ。“筋トレ”の効果を最大限に引き出し、継続していくためには、毎日するべきなのか、しないべきなのか?
真相はいかに……。
逸話と起源から学ぶ筋トレの原理原則
「クロトナのミロ」をご存じですか?
古代ギリシャの植民地であったイタリアのクロトナに生をうけた「ミロ」。青年となったミロの日課は、仔牛を担いで歩き全身を鍛えることでした。
担がれていた牛は日々成長し大きく重くなるので、それにともないミロの筋肉と筋力もどんどん強くなり、のちに筋骨隆々の古代オリンピック・レスリング史に名を遺すスゴいチャンピオンになったという逸話です。
ミロが「牛担ぎ」を筋トレと意図していたか、していなかったかはミロのみぞ知るところですが……。現代のさまざまなメソッドにも通ずる「過負荷(オーバーロード)の原理※1」と「漸進性の原則※2」の起源としてよく例えられるものです。
この2つに代表される「筋トレの基本原理・原則」には、3つの原理と5つの原則があり、筋トレを効果的に継続していくための大切な要素のひとつです。
ではそれぞれ、どんな内容なのでしょうか?
※1 過負荷(オーバーロード)の原理:筋肉を大きくするには、現状よりもさらに重い負荷でトレーニングしなければいけないという原理
※2 漸進性の原則:トレーニングの強度は少しずつ高めていかなければいけないという原則
まずは知っておきたいトレーニングの3つの原理と5つの原則
筋トレにおける原理とは筋トレをおこなうことによって、カラダにおこる現象のことを説明しており、原則とは効果を最大に引き出すためのルールを示しています。
3つの原理
①過負荷の原理
日々の生活で受ける以上の負荷をカラダに与えなけらば筋肉は強く大きくなりません。さらなる成長を求めるならば、より高い負荷をかけていかなければいけない。
②可逆性の原理
筋トレをおこなえば筋力は高まり、筋肉は大きくなろうとするが、やめれば元に戻ってしまう。
③特異性の原理
足の筋トレをすれば足の、腕の筋トレをすれば腕の筋肉が強く太くなる。足の筋トレをしたのに、腕が強く太くなるようなことは起こりえない。鍛えれらた部位が適応する。
5つの原則
①全面性の原則
筋トレをおこうなう際は、全身をバランスよく鍛える。
②漸進性の原則
筋トレに慣れたら、徐々に強度をあげていく。
③反復性の原則
筋トレの効果は、繰り返しておこなうことにより高まる。
④個別性の原則
筋トレをおこなう際は、年齢、性差、目的などを考慮する。
⑤意識性の原則
筋トレをおこなう際は、どこをどのように鍛えるかを意識する。
では3つの原理と5つの原則をご理解いただけたところで、最適な筋トレの間隔を検証してみましょう!!
筋トレを「どんな運動」と捉えるべきか?
そもそも「筋力があがる、筋肉が大きくなる」という身体現象は環境への適応によって起こるものです。ここで私のトレーニング指導経験の中からオモシロイ事例をひとつ紹介してみましょう。
年齢が中年の域に差し掛かり体力低下が気になりはじめた、とある男性。見た目はほっそり、華奢とも思える体格。体力の向上と、幾ばくかあった体型へのコンプレックスの解消を目論んで筋トレを開始されました。
指導を開始してまもなく、左の前腕部だけがシオマネキのように際立って太く逞しいことに目を奪われます。差し支えなければと、お仕事をお伺いすれば、「20年間中華料理のシェフ」をされているとのこと……。合点がいきました。
お客様に料理を提供するために、来る日も来る日も気の遠くなるような回数、重い鉄製の中華鍋を振り続けた左前腕は、その環境に順応して否応なしに発達を遂げたのです。はたして、これは筋トレと解釈してよいものなのでしょうか?
男性がお仕事の一環としておこなってきた中華鍋を振るという行為を、3つの原理と5つの原則にオーバーラップさせてみます。
3つの原理
①過負荷の原理
日々の生活で受ける以上の負荷をカラダに与えなけらば筋肉は強く大きくなりません。さらなる成長を求めるならば、より高い負荷をかけていかなければいけない。
⇒持ったことのない重さの鍋も、やがて順応した前腕によって扱えるようになる。更なる発達のためには、より重い鍋に変える。
②可逆性の原理
筋トレをおこなえば筋力は高まり、筋肉は大きくなろうとするが、やめれば元に戻ってしまう。
⇒料理をやめてしまえば、前腕は細くなっていく。
③特異性の原理
足の筋トレをすれば足の、腕の筋トレをすれば腕の筋肉が強く太くなる。足の筋トレをしたのに、腕が強く太くなるようなことは起こりえない。鍛えれらた部位が適応する。
⇒負荷が強くかかった前腕のみが太くなった。
5つの原則
①全面性の原則
筋トレをおこうなう際は、全身をバランスよく鍛える。
⇒前腕のみが、鍛えられている。
②漸進性の原則
筋トレに慣れたら、徐々に強度をあげていく。
⇒労働時間あたりの料理を提供できる数、労働時間を増やす。
③反復性の原則
筋トレの効果は、繰り返しておこなうことにより高まる。
⇒日々の労働によって繰り返される。
④個別性の原則
筋トレをおこなう際は、年齢、性差、目的などを考慮する。
⇒目的は料理を提供することで、前腕を鍛え太くすることではない。
⑤意識性の原則
筋トレをおこなう際は、どこをどのように鍛えるかを意識する。
⇒前腕の発達は繰り返し、料理を作ったことの副産物。
筋トレとは○○な運動である
環境への適応によって、筋力があがり(意のままに重い中華鍋を扱えるようなった)、筋肉が大きくなった(前腕が太くなった)という結果だけをみれば、男性の仕事は一種独特の筋トレと捉えられます。
しかしながらこの身体現象の結果には、男性の体力を向上させ、ガッチリとした体型に変貌を遂げるという目的や願望が達成されていません。またその目的を達成しようとする男性の意志や計画性も存在していないのです。
つまり前腕の筋力向上と筋肥大は、お客様に美味しい中華料理を提供し続けた副産物としてもたらされたのです。
原理や原則になぞらえて検証してみれば、筋トレとは実践者の意志があり、合理的に計画性を持って「筋肉に負荷をかけておこなわなければいけない」運動と言い換えられます。
筋トレは毎日やってもいいのか
いわゆる自重トレと呼ばれるような、自体重が負荷となる種目(腕立て伏せ・スクワット・腹筋など)を、適正強度(通常10~20回の反復回数で2~3セット程度)でおこなうならば、毎日おこなっても問題ありません。
筋トレをおこなうこと自体が、適度な運動というラジオ体操のような位置づけであることが前提です。過負荷も漸進性も考慮しない、目的はあくまでも体格や体力の現状維持です。
※デスクワークやドアツードアの生活が日常化し、自体重が負荷でもツラく感じる方は、自重の筋トレでも継続しておこなえば変化をおこします
ただし現状の体格や体力のブレイクスルーを期待するならば、原理原則を基本に筋トレプログラムを構成せねばなりません。自体重のみならずバーベルやダンベル、マシーンなどを使用し、それ相応の負荷を局所、全身にかけられることが重要です。
おおまかにいえば、バーベルやダンベルなどの器具は、道具をいかに使いこなして筋肉に負荷をかけるかを考えなければいけません。対してマシーンは、いかにして簡単に対象とする筋肉に負荷をかけられるかを考え設計されています。
バーベルやダンベルなら身体操作の感覚やコツを掴むことで、マシーンならばその設計のアイデアによって全身、局所の筋肉に効率良く負荷をかけられるのです。
いずれの場合でも、原理原則にのっとり筋トレを重ねれば、やがては普段の生活では体験しがたいような負荷を筋肉にかけられるようになるのです。
また筋トレ中は筋肉が絶えず伸縮し、筋トレ後はいわば切り傷ような微細な損傷を起こしています。
筋トレ後におこる筋肉が修復され大きくなるプロセスは、切り傷が治癒するプロセスとよく似ていて、かすり傷なら皮膚もすぐに回復。傷が深く大きくなればその治りも遅くなるのと同様に、筋トレによる負荷や強度(回数やセット数)が高くなれば高くなるほど、その修復と回復に時間を要するのです。
つまり筋トレを毎日すべきか否かの境界線は「強度と回復」に注力し、決定しなければいけないのです。
まとめ
今回のコラムでは、筋トレをはじめた頃におこる疑問「筋トレは毎日やってもいいのか?」について解説してみました。
ヒトがなにかを決意し、チャレンジしたらできるだけ早く結果を手にいれたいのは言わずもがな。けれども筋トレの成果は、一朝一夕には手に入らないものです。長期的なプランで明確な意志持ち、計画性のあるプログラムを遂行しなければなりません。
加えて生活サイクルの中に「運動・休養(睡眠)・栄養(食事やサプリメントの摂取)」をバランスよく組み込むことも大切です。
本コラムに登場した中華料理のシェフのように……。「成果をもたらす一番の秘訣」は、継続は力なりであることをお忘れなく。