クレアチンとは?筋肉の特性と種類、3つのエネルギー供給システムから理解する
近年では環境にもお財布にも優しい、「ハイブリッドカー」を所有する方が増加。ハイブリッドカーとは、2つ以上の動力源を備えた自動車のことで、一般的にはガソリンで動くエンジンと電気で動くモーターを装備。
車が動きはじめ、速度の遅いときには電気で動くモーターを作動して走行。スピードにのり燃費効率がよくなったところで、ガソリンで動くエンジンに切り替わるシステムを搭載しています。
ヒトが走るための動力源は“筋肉”で、実は“筋肉”にもハイブリッドカーと同じような機能が備わっているのです。
筋肉を使って“走る”という行為を基準にしてみると、フルスロットルでおこなう50m走のように10秒足らずで終わる運動と、ローギアながらマラソンのように長時間おこなう運動は対極にあります。対極にある運動では、同じヒトがおこなう運動でも使用する筋肉とエネルギー供給源が異なってくるのです。
クレアチンは、エルゴジェニックエイド※の中でもポピュラーな栄養素のひとつで、前述した50m走のように運動強度の高い競技や筋力トレーニングで必要な栄養素として明らかになっているものです。
では、クレアチンの有用性や特徴とはどんなものなのでしょうか?今回はクレアチンについて詳しく解説していきます。
※ エルゴジェニックエイド:スポーツにおいてパフォーマンスの向上のサポートが期待できる手段・食品
筋肉の種類と特性を理解する
図1:筋肉の種類と特徴
図1をご覧ください。ヒトがもつ筋肉の特徴を魚類の種別がもつ筋肉の特徴に準えて示したものです。図にある魚をお刺身で食べたときの切り身をイメージしていただくと、特徴を理解しやすくなります。
まずタイプⅠと呼ばれる筋肉は、マグロのような性質を持ちます。
マグロは回遊魚で移動距離の長い魚です。長い距離を移動するには継続的に酸素を供給し、エネルギーを作り出さなければなりません。酸素は血液を介し運搬されるのでその成分(ヘモグロビン、ミオグロビン)が身(筋肉)に投影され赤い色をしているのです。
ヒトであればマラソンやトライアスロンなど、長時間同じ動作を繰り返す運動をおこなう際は、この筋肉を使います。
続いてタイプⅡaと呼ばれる筋肉は、タイのような性質を持ちます。
タイには明石のタイなど、産地がブランド化され名称が付くように、近海に生息する魚です。獲物を追うとき、また追われるときも「瞬発的」な能力を発揮しなければならず、ソコソコの範囲の海域で絶えず素早く泳ぎ回っています。
酸素を必要としないエネルギーを利用し、身(筋肉)は白色です。ヒトであれば400m走など、スピードを出しながら一定時間継続する運動をおこなう際、この筋肉を使います。
最後にタイプⅡbと呼ばれる筋肉は、ヒラメのような性質を持ちます。
ヒラメは海底に定着生活し、海底の色に合わせた保護色となりジッとして身を潜めています。しかし獲物が近づくと、目にも止まらぬ速さで素早く動きそれを捕えるのです。
タイよりも活動範囲は極端に狭くなりますが、より爆発的なスピードでの移動が必要。酸素を必要としない、より短時間でのエネルギーを必要とし、身(筋肉)はより透き通った白色です。ヒトであれば投てきや幅跳び、50m走など、コンマ何秒~数秒で強い力を発揮する運動をおこなう際は、この筋肉を使います。
魚類の場合は広い大海原で外敵から身を守り、食料を確保して種を保存していくため、その種固有の筋肉の特性を有しています。しかしながらヒトの場合は、人種や先天的な特性に若干の違いはあるものの、複数の筋肉の特性を有し、おのおの筋肉に応じたエネルギーを利用するのです。
ではそのエネルギー供給システムとはどのようなものなのでしょうか?
3つのエネルギー供給システム
ヒトが筋肉を動かすためのエネルギーには、ATP(Adenosine Tri-Phosphate:アデノシン3リン酸)と呼ばれる化合物が使われます。このATPは、食物から摂取した栄養素が人体でさまざまなプロセスを経て構造を変え、筋や脂肪、肝臓などの細胞や臓器にストックされています。
最終的にはATPとして活用されますが、用途に合わせ、あらかじめストックされる化学的構造(脂肪やグリコーゲンなど)とエネルギー量が違うのです。
ストックされたATPは分子量の大きさで、エネルギーを供給できる時間が長くなります。図2は、そのエネルギー量を模式化しタンクの大きさで示したものです。
図2:エネルギー供給システムの由来と供給時間
図2を参照しながら、筋タイプとエネルギー供給の関係について具体例を挙げて解説してみます。
たとえばアナタが、50m走を全力疾走したタイムが8秒だったとします。タイムは“走る”という運動を最大努力下で成し遂げた結果です。ではそのスピードを維持したまま、あとどれくらいの距離なら最大スピードを継続できるでしょうか?到底マラソンの距離など走れないと、容易に想像できたでしょう。
では全力疾走で8秒間走ったあとに少しペースダウンするか、あるいは最大スピードの80%くらいのスピードならどうでしょうか?数百m、数十秒なら、そのスピードを維持して走れそうですよね?
実はこれは、イメージや感覚の世界で起こりうることではありません。
前述したようにヒトの筋肉は、自らに課せられた“走る”という運動の強度によって、使用する「筋肉とエネルギー供給システム」を選択しているからなのです。全力疾走ならば筋肉は、タイプⅡb(ヒラメ)が選択され、素早く収縮しているので直ちにATPを利用します。
残念ながらATPは筋肉中にごくわずかしか存在しないので、すぐに枯渇してしまいます。するとATPを補うために、クレアチンがリン酸と結合して存在するクレアチンリン酸(CP)の助けを借り、ATPを再合成してエネルギーを捻出。最大努力下で筋肉を動かせば、タイプⅡbの速筋線維とATP-CP系のエネルギーが選択されているのです。
最大努力下で走りはじめたとて、8秒前後でATP-CPは枯渇してしまいます。
その後も、最大努力下に近いスピードで走り続けるには、筋肉のタイプをⅡa(タイ)にスイッチするか、あらかじめタイプⅡaが適応しうるスピードで走っておかなければなりません。当然この場合は、それに耐えうるエネルギー供給システムで対応します。
このときは、主に体内に貯えられているグリコーゲン(糖質由来)をピルビン酸に分解してATPを算出。緊急度合いの高さから、酸素の供給が追いつかない状態でATPを算出するので、乳酸を作り出してしまいます。乳酸がオーバーフローして血中濃度があがると、運動を継続するのが困難になるのです。
余談ですが、400mなど中距離を専門とする陸上選手が「ケツ割れ」と称し、ゴール後にお尻と太ももに張り裂けんばかりの独特の痛みに見舞われるのは、この現象をあらわしています。
対照的に、ジョギングやウォーキングなど強度が低めの運動の場合は、タイプⅠ(マグロ)の筋肉が選択されます。タイプⅠの筋肉は、ミトコンドリアといわれる小器官を多く有します。酸素が充分に供給される状態にあれば、ピルビン酸や脂肪が分解され、生成された遊離脂肪酸から大量のATPを生産し、エネルギー供給に富み長時間の運動が可能です。
クレアチンとは
筋肉の種類や特性、エネルギーの供給システムを理解することで、クレアチンが体内でどのように活用されているかがご理解いただけたかと思います。
とりわけ健康管理やスポーツなどによる食事制限、際立った偏食がない限り、解糖系や有酸素系のエネルギー源である糖質、脂質の摂取不足の可能性は低いと考えられます。
それと比較するとATP-CP系のクレアチンの一般的な摂取は、どのように考えればよいのでしょうか?
クレアチンの体内貯蔵量と1日の必要量
クレアチンは、ヒトの体内に自然に存在しています(筋肉に約95%、一部は脳にも含まれる)。クレアチンの人体の総貯蔵量は平均的な体格(体重約70kg)の成人で約120gと推定され、1日の必要量は約2~3gといわれています。
体内での合成と多く含む食品
クレアチンは体内で、3種類のアミノ酸(アルギニン、グリシン、メチオニン)から、主に肝臓、腎臓内で合成されます。体内で合成されるクレアチンは必要量の半分程度といわれ、不足分は食事から補う必要があります。
クレアチンは生肉や生魚に多く含まれますが、加熱調理の過程で含有量は減少します。
種別 | 名称 | 含有量(g/kg) |
---|---|---|
魚類 | ニシン | 6.5~10 |
魚類 | サケ | 4.5 |
魚類 | マグロ | 4.0 |
魚類 | タラ | 3.0 |
魚類 | カレイ | 2.0 |
肉類 | 豚肉 | 5.0 |
肉類 | 牛肉 | 4.5 |
その他 | 野菜 | 微量 |
その他 | 果物 | 微量 |
図3:クレアチンの含有量
図3をご覧ください。クレアチンを効果的に摂取できる食品は魚類、肉類です。
日常生活において特段強度の高い労働や、瞬発的な筋力を発揮するスポーツを実践されている方でなければ、三度の食事でバランスのよい食事を心がけていれば不足する可能性が低い栄養素だと思われます。
しかしながら常習的にそのような環境下に身を置かれる方は、クレアチンがエネルギーとして使用され、不足しがちになります。調理や摂取の方法を考慮して、積極的な摂取を心がけるようにしましょう。
まとめ
近年、瞬発系の競技をおこなうアスリートが積極的に摂取を試みる栄養素「クレアチン」について解説しました。
アスリートの世界では競技中でも、日々のトレーニングにおいても「あと1秒、あと1㎝、あと1回」が明暗を分けるのは言わずもがな。可能性を見出せば、クレアチンのように“ピンポイントでエネルギー利用特化型”の栄養素にさえも「藁をもすがりたくなる」のが心情。
しかしながら含有量を鑑みれば、毎日同じ食品を多量摂取することにムリがあるのは火を見るより明らか。実現可能なルーティンと肉や魚、種類のバランスのよい組み合わせで摂取しましょう。
参考文献
Balsom, P. D., Söderlund, K., & Ekblom, B. (1994). Creatine in humans with special reference to creatine supplementation. Sports medicine, 18(4), 268-280.
特定非営利活動法人 日本食品機能研究会. 食品の三次機能(体調調節)を解明. 閲覧2020-09-16, https://www.jafra.gr.jp/index1.html
一般社団法人日本スポーツ栄養協会(SNDJ). 第1回「クレアチンの基礎 その効果と作用機序、歴史」 | スポーツ栄養Web. 閲覧2020-09-16, https://sndj-web.jp/news/000606.php