イヌリンとは?効果的な摂取方法や摂取目安量について
近年の健康ブームにより、「イヌリン」を摂取したことがある方も増えつつあるのではないでしょうか。
一方で、健康に良さそうだけれども、よくわからない方もいらっしゃるのでは?そもそも「イヌリン」とは一体なんなのでしょうか。
イヌリンとは
イヌリンの歴史
イヌリンは、チコリや菊芋に含まれている成分です。
チコリは北欧ではごく普通に食卓に並ぶ食品であり、チコリが身体によいことは昔から知られていたようです。特にこのチコリの成分であるイヌリンはGI値を低く抑えることがわかり、欧米では19世紀頃より健康のために食事に使用していたという一説があります。
イヌリンの構造
砂糖に果糖が1~3個結合したものをフラクトオリゴ糖といいます。この「フラクトオリゴ糖にさらに果糖が結合したもの」とフラクトオリゴ糖含めてイヌリンといいます。
ヒトは砂糖の結合を切る酵素(ハサミのようなイメージ)をもっているので、消化しエネルギーに変換が可能です。一方で、イヌリンを消化するための酵素をもっていないため、体内で消化できません。
よってイヌリンも食物繊維に属し、水に溶けやすい性質であることから水溶性食物繊維に分類されるのです。
イヌリンはどんな食品に含まれているのか
イヌリンはチコリや菊芋などの塊茎に含まれています。
※塊茎:根の一部が肥大化して塊になったもの。代表的な植物はジャガイモ。
菊芋の原産国はアメリカで、江戸時代に日本に入ってきて戦時中までは普通に食べられていました。しかし食が豊かになるにつれて食卓に並ぶ機会が減ったようです。ところが昨今の健康ブームで、菊芋の作用がメディアで紹介されるようになり注目され始めました。
その他にも、
- 小麦や大麦などの穀類
- 玉ねぎ
- にんにく
- らっきょ
- ごぼう
といった野菜に含まており、私たちが身近に食べている食品に含まれているのです。
食品加工産業における代替え
イヌリンは食物繊維として摂取されるだけではなく、保湿性や増粘性などの特性をいかして、生クリームや蒸しパンなどのお菓子の品質改良にも利用されています。また最近では、脂肪の代替として利用されており、イヌリンからできた低カロリーバターが流通しています[1]。
イヌリンの働き
イヌリンに期待できるメリット
※イヌリンの栄養素としての説明です。
すっきり習慣に
イヌリンを含む水溶性食物繊維は、腸内まで届き、善玉菌のエサとなり、酸を発生することで、悪玉菌の嫌いな酸性の状態になります。また成人において、チコリから抽出したイヌリンがすっきり生活に有用であったという報告もあります[2]。
GI値を低く抑える
水溶性食物繊維は、腸内まで到達して、体内でゲル化。他の栄養素を巻き込みながら移動して排泄されることから、多くの健康の対する研究結果が証明されています。
イヌリンを摂取した群とプラセボ※1で比較した結果、イヌリン群においては、体重が気になる方におすすめであるという報告があります。この研究ではさらに面白いことに、身体を守ってくれることもわかりました[3]。
研究数としてはまだまだ少ないという懸念点はありますが、今後の研究に期待したいところであります。
※1 プラセボ:外見は有用成分を含む試験物と全く同じであるが、有用成分が入っていない偽物の試験対照物のこと。なにを飲んでいるかがわかってしまうと心理的影響により、正確なデータが取りにくくなってしまうため、それを避けるために多くの研究ではプラセボを準備する。
体重管理中のサポートに
イヌリンの成分の一種であるオリゴフルクトースを摂取した群(イヌリン群)とプラセボ群を比較した結果の報告があります[4]。
体重が気になりながらも、食べることが好きな方にはオススメの食材の一つであると考えられています。
しっかりとした栄養補給に
動物実験の段階ではありますが、イヌリンを摂取したマウスとプラセボ群を比較した際に、イヌリンはカルシウムとマグネシウムとの相性がよいという報告があります。これはイヌリンが食物繊維として体内で発酵して腸内細菌のエサになり、短鎖脂肪酸が発生することに関連している可能性があると考えられています[5]。
また思春期の男女を対象にした研究では、イヌリンを摂取した群とプラセボ群を比較した結果、イヌリン群で丈夫な身体づくりのサポートとなある可能性が報告されました[6]。
イヌリンのデメリット
イヌリンは食品に含まれている成分であり、安全性は高いといわています。
ただし卵や柑橘類など他の食品と同様に、アレルギー反応をおこす人もいるようです。極めて稀ではありますが、イヌリン食物アレルギーが数例報告されています[7]。
また食物繊維を多量に摂取することで、胃に不快感を感じられる方もいらっしゃるようです。多量に摂取するのではなく、自身の体調と相談しながら摂取することをおすすめします[8]。
イヌリンの摂取目安量
イヌリンは、菊芋やごぼうなど我々が普段食べている食品に含まれている成分であり、安全性は高いと考えられています。
しかしながらイヌリンの摂取目安量については、はっきりとわかっていないのが現状です。多くの研究では5~15gの範囲で摂取して検証をおこなっています。またイヌリンを摂取することでの健康メリットについて、多くの研究で証明されているのも事実です。
一方でデメリットについての報告もあります。イヌリンを摂取することで胃腸に苦痛を引き起こす可能性もあることから、10g/日が許容ではないかという報告もあります[9]。
いきなり多量に摂取するのではなく、1日2〜3gを少なくとも1〜2週間摂取することから始めてみた後、徐々に自身にあった量に調整してみてはいかがでしょうか。
また多くの研究が健康な人が対象でした。病気をお持ちの方や妊娠中の方は、使用する前に医師に相談してみましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?身近な玉ねぎやごぼうやなどの食品や、ヨーグルトに添加されているものもあり、知らないうちに摂取していたかもしれませんね。
食物繊維にはペクチンやアルギン酸など、イヌリン以外にたくさんあります。単一の食物繊維に偏ることはおすすめできません。栄養素は単一で働くよりも、多くの栄養と摂取したほうがメリットが大きいと考えられています。
基本はバランスの良い食事あってのことです。
参考文献
1:田中彰裕. (2013). 食物繊維イヌリンによる脂肪代替. 日本調理科学会誌, 46(4), 312-313.
2:Micka, A., Siepelmeyer, A., Holz, A., Theis, S., & Schön, C. (2017). Effect of consumption of chicory inulin on bowel function in healthy subjects with constipation: a randomized, double-blind, placebo-controlled trial. International journal of food sciences and nutrition, 68(1), 82-89.
3:Pourghassem Gargari, B., Dehghan, P., Aliasgharzadeh, A., & Asghari Jafar-abadi, M. (2013). Effects of high performance inulin supplementation on glycemic control and antioxidant status in women with type 2 diabetes. Diabetes & metabolism journal, 37(2), 140-148.
4:Parnell, J. A., & Reimer, R. A. (2009). Weight loss during oligofructose supplementation is associated with decreased ghrelin and increased peptide YY in overweight and obese adults. The American journal of clinical nutrition, 89(6), 1751-1759.
5:Legette, L. L., Lee, W., Martin, B. R., Story, J. A., Campbell, J. K., & Weaver, C. M. (2012). Prebiotics enhance magnesium absorption and inulin‐based fibers exert chronic effects on calcium utilization in a postmenopausal rodent model. Journal of food science, 77(4), 88-94.
6:Abrams, S. A., Griffin, I. J., Hawthorne, K. M., Liang, L., Gunn, S. K., Darlington, G., & Ellis, K. J. (2005). A combination of prebiotic short-and long-chain inulin-type fructans enhances calcium absorption and bone mineralization in young adolescents–. The American journal of clinical nutrition, 82(2), 471-476.
7:Bacchetta, J., Villard, F., Vial, T., Dubourg, L., Bouvier, R., Kassaï, B., & Cochat, P. (2008). ‘Renal hypersensitivity’to inulin and IgA nephropathy. Pediatric Nephrology, 23(10), 1883-1885.
8:Ripoll, C., Flourié, B., Megnien, S., Hermand, O., & Janssens, M. (2010). Gastrointestinal tolerance to an inulin-rich soluble roasted chicory extract after consumption in healthy subjects. Nutrition, 26(7-8), 799-803.
9:Bonnema, A. L., Kolberg, L. W., Thomas, W., & Slavin, J. L. (2010). Gastrointestinal tolerance of chicory inulin products. Journal of the American Dietetic Association, 110(6), 865-868.