プロテインと糖質制限ダイエットの考え方
今やダイエットや筋肉アップの定番?というくらい人気の糖質制限。
また糖質制限をするにあたり、プロテインを活用している方も多いのではないでしょうか。しかしながら糖質制限には、リスクもあることをご存知でしょうか?
そこで今回は、糖質制限のメリット・デメリットを解説しながら、目的別に応じたプロテインの活用方法についてお話しします。
1日にどれくらいの糖質とタンパク質が必要か?
ダイエットや筋肉アップを目的に、日々悪戦苦闘しながら食事管理に励んでいることと思います。後に、それらのポイントについてはお話しますのでご安心ください。
そもそも1日にどれくらいの糖質とタンパク質が必要かご存知でしょうか。一般的にエネルギーの50~65%を炭水化物※から摂ることを推奨しています[1]。またアスリートの場合は、60%以上ともいわれています。
※糖質と炭水化物ってなにが違うの?と疑問をもつ方も多いようです。炭水化物=糖質+食物繊維です。難しいと思われる方は、炭水化物=糖質と解釈していただいても、そんなに弊害はありません。
タンパク質については、一般的に1日に男性60~65g、女性50gと必要といわれています[1]。日頃から運動をするなど活動量の多い人は、活動量に応じて1.4~2.0/kgを目安に摂取するとよいでしょう。
またタンパク質は、摂れば摂るほど筋肉合成できるというわけではなく、体脂肪を増やすことにもなるため、2g/kg程度を目安に考えていただけたらよいでしょう。
糖質カットしすぎていませんか?
糖質制限ダイエットとは、アメリカのロバート・アトキンス医師が提唱したダイエット方法です。自身も太りだしたことを気にしていた矢先、ある会社が肥満の従業員にさせていた食事に衝撃を受けました。なんと、彼らに提供されていた食事は1食あたりの炭水化物量20gと定められ、パンなどの主食をとことんカットして肉ばかり食べていたのです。
そこからヒントは得て、「炭水化物を可能な限り減らし、肉や魚、卵、野菜を積極的に食べる」食事法をまとめた著書『Dr. Atkins’ Diet Revolution』は1,500万部と空前の大ヒットを成し遂げました。これが今もなお、脚光を浴び続ける糖質制限ダイエットの始まりです。
近年、日本でも糖質制限ダイエットは、ブームを巻き起こし「なんでもかんでも糖質をカットした方がよい!」みたいな風潮になっています。はたしてその風潮は本当に大丈夫なのでしょうか?
糖質制限ダイエットのメカニズム
糖質制限ダイエットのメカニズムを知ることで、その答えは自ずとわかるでしょう。
人間にとって糖質は大切な栄養源です。特に脳は、生命活動を維持するために大量の糖質を必要としており、1日120~130gの糖質(400~500kcal)を消費しています。
食べた糖質(ブドウ糖)がすぐにエネルギーとして利用されるわけではありません。肝臓や筋肉、脂肪にグリコーゲンというかたちで貯蔵し、空腹時にこのグリコーゲンを分解してブドウ糖に変換し、エネルギー供給をおこなっています。
糖質制限ダイエットでは、供給されるブドウ糖が極めて少ない状態です。そのとき、体内では肝臓、筋肉、脂肪に蓄えておいたグリコーゲンをブドウ糖に変換しエネルギーとして利用します。ちなみにグリコーゲンは、水と結合して貯蔵されています。
この水が糖質制限のからくりです。グリコーゲンを分解してブドウに変換する際、この水分が大量に出ていくため体重が減るというわけです。そしてさらに糖質が不足すると、筋肉を分解してブドウ糖を作りはじめます。
もちろん、多少の脂肪は減りますが、これが繰り返されることで筋肉がごっそり減るため、「1ヶ月に5㎏程度」の減量が簡単にでき、ブームが巻き起こっているのではないでしょうか。
ただ実際に減ったのは水と筋肉というわけで、筋肉が減ることで代謝まで落ちてしまい、より太りやすい身体になってしまうのです。
「糖質制限ダイエットをやめたら、急に体重が増えました!」との相談を度々受けます。糖質を食べはじめると水と結合したグリコーゲンがちゃんと貯蓄されるので体重は増えますし、ダイエットをはじめる前よりも筋肉が減っているなら、代謝は悪くなっているわけですから、なおさら太るといわけです。
糖質制限の危険性
1日に50~65%の炭水化物摂取が望ましいと前述しました。
しかしながら糖質制限ダイエットをされている方のお話を聞くと、1日50g以下など極端に糖質を制限されている方もいらっしゃるようです。仮に1日1800kcal食べている人が、1日50g以下で管理している場合、エネルギー比率に換算すると約10%、圧倒的に不足しています。(はたして、このような食事がそもそも可能なのか疑問ですが……)
炭水化物摂取比率と死亡率について調べた研究では、炭水化物摂取量を5つのグループに分けて(>65%、55~65%、50~55%、40~50%、<30%)死亡率を調べた結果、もっとも死亡率が高かったのは、炭水化物摂取比率が30%未満のグループでした。
図1をご覧ください。縦軸はハザード比といい、高くなればなるほど死亡率が上昇。横軸は、炭水化物のエネルギー比率を示しています。炭水化物摂取が少なくても、多くても死亡率は増加しています。
そして炭水化物を50%程度摂取しているグループが最も死亡率が低いという結果になったのです。さらに図には示していませんが、炭水化物摂取量は抑えれば、抑えるほど、動物性脂肪の摂取が増加していたという結果が出ました。
つまりこのような食生活を続けることは、脂肪の摂取過剰も招き、動脈硬化や脳卒中、心筋梗塞のリスクも高めているのです。これほどのリスクを冒してまで糖質制限をしたいですか……?
図1:炭水化物摂取比率(%)と死亡率の関係
Seidelmann, S. B.,ら(2018)より引用[2]
筋肉合成には糖質が必要か?
ここまでお読みいただけたなら、極端な糖質制限の危険性をご理解いただけたでしょう。丈夫な身体づくりのためには、糖質は不可欠です。
丈夫な身体づくりには、筋肉の材料となるタンパク質(アミノ酸)を摂取する必要があります。この取り込み役となるのがインスリンというホルモンです。
インスリンというと血糖値を下げる働きが代表的ですが、その他、筋肉合成を促進することもわかっています[3]。インスリンは血糖値が上昇することにより分泌されるため、ある程度血糖値を上げることは大切です。とくに、筋肉アップのために運動をされている方は、タンパク質の摂取ももちろんですが、同時に糖質の摂取も重要なポイントです。
プロテインの活用ポイント
プロテイン+食事(糖質を補う)
たとえば、1日の摂取カロリー2,000kcalの人が炭水化物50%の比率で食事する場合、
2,000kcal×0.5%=1,000kcal
1,000kcal÷4kcal(炭水化物1g=4kcal)=225g(1日に必要な炭水化物量)
おおよそ、男性茶碗1膳(200g)に炭水化物は74g含まれています。
74g×3食=222g
その他、おかずにも炭水化物は多少含まれているので、食事で男性茶碗1膳ずつ食べていれば十分でしょう。運動前もしくは後にプロテインを摂取しておいて、食事でタンパク質と炭水化物、その他の栄養素を取り入れるとよいでしょう。
マルトデキストリン入りプロテイン
また急速に糖質を取り入れたい方は、マルトデキストリン入りプロテインを活用するのも一つの手段です。
マルトデキストリンは、ブドウ糖が数個~数十個程度つらなったもので、炭水化物よりも構造が単純であることから、消化・吸収しやすい特徴があります。運動後に急速にとり入れたい場合は、タンパク質とブドウ糖が一緒に摂取できるのでおススメです。
減量もしたい方
ここまで、炭水化物も筋肉合成に大切だとお話してきましたが、炭水化物を食べることに抵抗を感じる方もいるでしょう。
減量するにあたり重要なポイントは、筋肉を維持しながら効率よく脂肪だけを落としていくことです。糖質制限のメカニズムでふれましたが、極端に炭水化物を制限していると筋肉がエネルギーとして利用されるため、筋肉が減ってしまう恐れがあります。
よって適度に炭水化物を取り入れながら、摂取栄養量を減らすことがポイントです。脳が必要とする糖質量は120~130g/日です。人体にもっとも適切な炭水化物摂取量は不明ですが、極端な制限は身体に危険のおよぶリスクが高まる可能性があることから、アメリカの糖尿病学会では、19歳以上の成人において130g/日の炭水化物摂取が必要と推奨しています[4]。
それでは130g/日摂取するためには、どうすればよいでしょうか?それはとても簡単で、毎食、コンビニのおにぎりを1個食べればよいのです。
コンビニのおにぎり1個の糖質量は、約35~40g程度です。おかずにも多少なりと糖質は含まれているので、これなら簡単に達成できます。別に、コンビニのおにぎりでなくても構いません。ポイントは、毎食、米飯を100g(炭水化物37.1g含む)食べることです。(食パンなら6枚切り1枚≒米飯100gです)
プロテインの活用ポイント
摂取エネルギー<消費エネルギー
つまり、いかに摂取エネルギーを抑えて、消費エネルギーを高めるかです。消費エネルギーについてですが、食事ばかり減らしているとリバウンドしやすくなりますので、筋トレや有酸素運動をしっかり取り入れましょう。
食事のポイント
- 毎食、米飯100g(もしくは食パン6枚切り1枚)程度食べる
- 脂肪摂取をおさえる。(脂の少ない肉を食べたり、ノンオイルドレッシングを活用するなど)
- 良質なタンパク質を摂取(肉・魚・卵、大豆食品など)
- 毎食、野菜・海藻を取り入れる
プロテインを飲むポイント
減量中は、エネルギー摂取量を抑えるため、タンパク質の不足を招きがちです。そこでプロテインを活用するのも一つの手段として有効です。その際は、糖質の少ないプロテインの選択をおススメします。
また主食となる炭水化物、主菜となるタンパク質や脂質に気をつけながら、野菜はたっぷり取り入れましょう。1日に必要なタンパク質が食事だけでは足りないという場合は、運動前、もしくは後にプロテインを活用してみましょう。
まとめ
いかがでしたか?
極端な糖質制限は、筋肉量の減少だけにとどまらず死亡率の上昇に影響することがわかりました。たしかにある程度、糖質の摂取を抑えることで、インスリンの過剰分泌がなくなります。ダイエットのひとつの手段として有効ではありますが、限度があることを知り、最低でも糖質130g/日以上は摂取しましょう。
糖質制限など、「なにかを抜いたら、なにかを食べたら」というような方法は、ただ抜いたり・取り入れたらすむので簡単ですが、人間の身体はそう単純なものではありません。多くの栄養素が、さまざな臓器で助け合いながら働いているのです。なにかを抜けば、必ずどこかに支障をきたすことを忘れないでください。
バランスのよい食事と運動で痩せる方法は、いろいろと考えることが多く、たしかに面倒ですし、大変かと思います。しかしそれによって、得られる効果は炭水化物制限よりも遥かに大きいのではないでしょうか。
参考文献
1. 厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2020年版)
2. Seidelmann, S. B., Claggett, B., Cheng, S., Henglin, M., Shah, A., Steffen, L. M., … & Solomon, S. D. (2018). Dietary carbohydrate intake and mortality: a prospective cohort study and meta-analysis. The Lancet Public Health, 3(9), e419-e428.
3. Fujita, S., Rasmussen, B. B., Cadenas, J. G., Grady, J. J., & Volpi, E. (2006). Effect of insulin on human skeletal muscle protein synthesis is modulated by insulin-induced changes in muscle blood flow and amino acid availability. American Journal of Physiology-Endocrinology and Metabolism, 291(4), E745-E754.
4. Evert, A. B., Dennison, M., Gardner, C. D., Garvey, W. T., Lau, K. H. K., MacLeod, J., … & Saslow, L. (2019). Nutrition therapy for adults with diabetes or prediabetes: a consensus report. Diabetes Care, 42(5), 731-754.