プロテインは体に悪い?腎臓・肝臓の負担について解説
近年、カラダづくりや健康維持のために、手軽に効率よくタンパク質を補給できるサプリメントとして、多くの人に支持されるようになったプロテイン。
一昔前は、飲めなくはないが、決してお世辞にも「美味しい!!」とはいえない、独特な風味のものが大半でした。
プロテイン摂取のメリットは知りつつも、その風味が受け入れられずに継続して摂取できなかった人も数知れず。
しかしながら最近の商品は、各メーカーさんの企業努力の甲斐あって、テイスト、風味は見違えるほどに改善されました。ジュース感覚でゴクゴクいけちゃう本当に美味しいプロテインが数多く店頭、ネット上にラインナップされています。
「帯に短し 襷に長し」とはよくいったもので、「美味しくない」から続けられなかったものが、美味しさゆえに飲みすぎっちゃう……という風に変化しています。
いくらカラダづくりや健康のためとはいえ、プロテインに限らずどんな食物や飲料も、偏って摂り過ぎれば「カラダに毒」となるのはいうまでもありません。とくに体内のタンパク質の代謝に関わる腎臓、肝臓の、ふたつの臓器の負担に関する情報は、皆さんも目にする機会が多いもののひとつではないでしょうか?
その情報には、具体的な数値の基準を提示したものから、数値はおろかプロテインの摂取自体を否定するものまで、まさに玉石混交。
こちらの記事は、「プロテイン摂取が腎臓、肝臓にどのような影響をおよぼすか?」というお話です。
「タンパク質の代謝」とはどのようなものか?
人体の約15~20%が「タンパク質」で構成されています。「タンパク質」は「骨格・筋肉・内臓・皮膚・爪・毛髪・脳・血管」などありとあらゆる細胞・組織の材料となっています。
また、
- 酵素
- ホルモン
- 神経伝達物質
- 赤血球
- 遺伝子
- DNA
などをつくる材料としても活用されます。
さらに体内に貯蓄されたタンパク質は、飢餓や長時間のスポーツなどの緊急時には分解されてエネルギー源として利用されます。
このように「タンパク質」は人体において多岐に渡る機能と役割を担っているのです。しかし残念ながら、プロテインや肉、魚、卵などから摂取したタンパク質を人体でそのままの形で活用することはできません。
なぜなら、どんな食品に含まれる「タンパク質」であれ、一旦は「アミノ酸」という最小単位の分子へとバラバラに分解する必要があるからです。
たとえば、現代最高峰の医学の力を持ってしても、サラブレッドの足の筋肉をヒトに移植して筋肉を増強し、「足を速くする」ことなど不可能です。それは「馬の筋肉」を構成しているタンパク質と、「ヒトの筋肉」を構成しているタンパク質がまったく違うものだからです。
筋肉を増強して足を速くするためには、筋力トレーニングという刺激と負荷により「筋が破壊(分解)」されるというキッカケを作り、修復(再生・肥大)させるというプロセスが必要になります。その際に、材料となるタンパク質の摂取が重要なサポートになります。
つまり「馬の筋肉」は移植という選択ではなく、「さくら肉」として食し、アミノ酸まで消化・分解し、「ヒトの筋肉」へと再構築しなければいけないのです。
人体には20種類のアミノ酸が存在します。一般的にタンパク質とは、このアミノ酸が1本に繋がったものと定義され、組織や器官、細胞などその用途に応じて配列や結合の長さを変えるのです。
この「タンパク質」は、日々数%ずつ古いものを壊し、新しいものに作り変えるというターンオーバーを繰り返し、組織や細胞は常に入れ替わっています。
こういった一連のサイクルを「タンパク質」の代謝といいます。
一連のサイクルと腎臓と肝臓の関りについて
食事で摂取したタンパク質は、胃、小腸の消化酵素によってアミノ酸まで分解。そして門脈という血管を通り肝臓に運ばれたのち筋組織、血液中などで貯蔵されます。これを「アミノ酸プール」と呼びます。
前述したターンオーバーでは、このアミノ酸プールのアミノ酸と、組織や器官などで古くなったタンパク質が、分解されてできたアミノ酸が共同利用されているのです。
人体で活用されるアミノ酸には、食事由来と、リサイクル由来の、ふた通りあるのがおわかりいただけたことでしょう。
このようにタンパク質がアミノ酸にまで分解され活用されるまで、または再活用されるプロセスではアンモニアという人体に有害な物質や、代謝産物である尿素が生成されます。
いずれの場合も最終的には、腎臓、肝臓という臓器の連携プレーによって、害のない不要な物質に変えられて体外に排泄、放出※されます。
※排泄、放出は尿、便、皮膚から。
タンパク質が人体でどのように利用されたかは、「体表面上の変化によって確認できるもの」から、「体内における目視できないミクロの変化」まで違いはさまざま。確実にひとついえることは、必ずいらないものとなって、体外に出ていくことです。
つまり図2のように、出ていった分は摂取し、活用してまた出す、という循環を生命が維持される限り繰り返さなければいけないのです。
この循環に必要な量のタンパク質を摂取する限り、肉や魚、卵などに含まれるタンパク質であれ、プロテインに含まれるタンパク質であれ、腎臓や肝臓に大きな負担となる可能性は低いといえるでしょう。
では必要な量の目安とは、どれくらいなのでしょうか?
タンパク質摂取量の目安とは
「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によれば、18歳以上の健康な成人の1日におけるタンパク質摂取推奨量は男性60~65g、女性は50gとなっています[1]。
この推奨量は、人体が成体となり骨格形成を終え、それを維持するための標準的な体格や生活強度※1が指標となっています。
カラダの大きな方と小さな方。日々の生活で、積極的にスポーツや筋力トレーニングをおこなっている方と、そうでない方を比較すれば当然、前者の必要量が増すのは容易に想像できるでしょう。
また近年の知見では、サルコペニア※2の予防のために高齢者においても推奨量より多めの摂取の必要性が報告されいます。
平成30年の「国民健康・栄養調査」の結果をみると20代~80代、各世代のタンパク質摂取量が男性で72~79g、女性で60~70gと推奨量よりも多くなっています[2]。
このような事例と対比させれば、多くの人が、生活環境や健康状況を意識して「タンパク質」を摂取していることがうかがい知れます。
また体格の個体差を考慮したアメリカ・カナダの数値を参照すると、必要量を男女ともに0.66g/kg(体重)/日と定めており、おおむね摂取量の目安は、このあたりの量とするのが妥当といえるでしょう。
※1 生活強度:デスクワークや立ち仕事などの違いによる身体活動の強さを表す指標。タンパク質は上記の摂取量を参考に3回の食事で、3等分して均等に摂取することが、理想的とされています。
※2 サルコペニア:一般的に高齢者は、若齢者と比較すると、食事の摂取量そのものが減少し、それに伴いタンパク質の摂取量も少なくなる傾向にあります。高齢者の骨格筋ではタンパク質の合成よりも分解が上回り、サルコペニアを誘発する可能性が高い。
サルコペニアとは、加齢に伴って生じる骨格筋量と筋力の低下により、統合的な体力因子の低下を招き、それが引き金となり身体活動量が低下していく現象のこと。
摂取量が多くなるケースもある
体格や日常のスポーツ・筋力トレーニングの実施状況と頻度、生活強度などの条件が重複すれば、より個体差が大きくなり目安量の基準値が高くなる可能性があります。
しかしながらスポーツ・筋力トレーニングを指標とした場合は、そのレベルの区分けと認識が曖昧になりがち。スポーツ・筋力トレーニングをおこなっているといっても、趣味や健康維持の範疇からプロアスリート、アマチュアといっても各競技のコンペティターまで、その振り幅は大きいものです。
時にプロアスリートや競技者は、勝利を手に入れるその過程のカラダづくりのために、常軌を逸するような食事をおこなう例も少なくありません。
プロボクシングの世界から、一つの事例紹介します。
ボクシング通なら、名前を聴けば誰もがシビレるチャンピオン。
ムダな脂肪をそぎ落とし、過酷な減量が知られるボクシングという競技で、フライ級[108 – 112ポンド (48.988 – 50.802kg)]から、スーパーウェルター級[147 – 154ポンド (66.678 – 69.853kg)]まで増量し、6階級のタイトルを手にしました。
当然この増量は、俊敏性とスタミナという体力要素が求めらる競技の特性を考えれば、ピュアな筋肉での増量であったと考えられます。カラダを大きくするために1日8,000kcalの食事を自らに課したという伝説があり、その摂取カロリーは一般成人男性の4日分にも相当していました。
推奨摂取比から推定すると1日400g程度のタンパク質を摂取。体重1㎏に対し5倍以上のグラム数を摂取していたことになります。
ただこのような場合は、管理栄養士やトレーナーなどの指導のもとに実践されることがほとんどですし、ややもすればシビアなプロスポーツの世界では、健康を視点にしたときの多少の犠牲は覚悟の上。
ご自身のスポーツや筋力トレーニングのレベル、境遇を見極めずに、目安を大幅に上回るような過剰摂取は、腎臓や肝臓の不調を招く可能性があるので十分にお気をつけください。
まとめ
基準値を指標とすればプロテインは安全性が高く、効率よく「タンパク質」を摂取できる食品であることが確認できたのではないでしょうか?
ただし「タンパク質」に限らず、すべての栄養素における摂取量の上限値や下限値は、メタアナリシス※3によって設定されたもので、個人の特性を限定するものではありません。
当然、道徳や人権的な観点から、「どこまで摂っても、摂らせなくても健康被害はなかった」というような研究報告から導き出された数値でないことも火を見るよりも明らかです。
まずは可もなく不可もない平均的な指標から、段階的な摂取量の調整を心がけてください。
また筋肥大や競技能力向上のための「カラダづくり」に焦点があてられると、結果を焦るあまり、「〇〇選手は、あんなに摂っている!!」「あれだけしか摂ってないのに、あんなに強い」を自分自身に投影し、過剰摂取や摂取不足に陥ってしまうことも少なくありません。
思うような結果が得られなかったり、カラダに不調を感じた場合は自己判断せずに、医師や管理栄養士、トレーナーといった然るべき専門家に相談しましょう。
※3 メタアナリシス:似ている研究データを複数統合し、統計的方法を用いて解析した統計的総説
参考文献
1. 厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2020年版)
2. 厚生労働省. 平成30年「国民健康・栄養調査」