プロテインは飲むだけで太るのか?痩せるのか?
「〇〇するだけで〇〇!」ってとても魅力的ですよね。なにかひとつのことをやるだけで効果があらわれるなら、一度はやってみようかなと思うかもしれません。
プロテインも同様に「飲むだけで痩せる!」「飲むだけで太る!」「飲むだけで筋肉がつく!」といった情報が錯綜しています。
一体なにを信じればよいのでしょうか?そして本当にそんなことが起こるのでしょうか?こちらの記事では、「プロテインを飲むだけで〇〇」という皆さまの素朴な疑問にお答えします。
プロテインを飲むだけで〇〇という噂
スマホで検索してポチっと商品を買ったり、気になる言葉を検索すれば簡単に情報が手に入る世の中になりました。とても便利な反面、現代人は「待つ」ことが苦手になっています。
例えば、ダイエットにおいても、短期間で結果が出る方法や簡単に結果が出る方法ばかり求めているのではないでしょうか。少し辛辣な意見になるかもしれませんが、こういう考え方でダイエットに取り組むと結果的に失敗しやすくなります。
「プロテインを飲むと〇〇」という噂に対しては、そのプロセス(過程)を抜きにして明確な答えは出せません。痩せるにしろ、太るにしろ、プロテインだけが直接的な要因にはつながりません。食生活や運動習慣、ライフスタイルなどその人の身体に影響を及ぼす要因は多岐に渡るのです。
結論=プロテインを飲むだけでは身体に良い変化はあらわれない
この時点で「なんだ、それならもういいや」となってしまいそうな方は、もう少しだけ踏みとどまって、読み進めてみましょう。なにか解決のヒントがあるかもしれません。
目的で変わる「総摂取カロリー」の重要性
結局のところ「体重の増減」は、ほぼカロリーで決まるといっても差し支えないでしょう。そんなの当たり前過ぎて、わざわざ言及することではないかも知れません。しかしカロリーは、意外と見過ごしてしまう重要ポイントですので、整理しておきましょう。
お菓子を食べて、お酒も飲んで、脂っこい食事を続けているにも関わらず、プロテインを飲んだだけで魔法のように痩せてしまうことが起こりうると思いますか?
もしそれが真実なら、科学的な根拠が示され、世の中にもっとプロテインが広まっているはずです。これはその他のダイエット方法にも同じことがいえるでしょう。
自分の消費カロリーを知ろう
大前提として、自分の食事量と活動量を知り、バランスを把握することがとても重要です。まずは一日の活動に伴う総消費カロリーを把握しましょう。厚生労働省が発表したデータをもとにした表を参考にしてみてください。
性別 | 男性 | 女性 | ||||
身体活動レベル1 | Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ |
0~5(月) | – | 550 | – | – | 500 | – |
6~8(月) | – | 650 | – | – | 600 | – |
9~11(月) | – | 700 | – | – | 650 | – |
1~2(歳) | – | 950 | – | – | 900 | – |
3~5(歳) | – | 1,300 | – | – | 1,250 | – |
6~7(歳) | 1,350 | 1,550 | 1,750 | 1,250 | 1,450 | 1,650 |
8~9(歳) | 1,600 | 1,850 | 2,100 | 1,500 | 1,700 | 1,900 |
10~11(歳) | 1,950 | 2,250 | 2,500 | 1,850 | 2,100 | 2,350 |
12~14(歳) | 2,300 | 2,600 | 2,900 | 2,150 | 2,400 | 2,700 |
15~17(歳) | 2,500 | 2,800 | 3,150 | 2,050 | 2,300 | 2,550 |
18~29(歳) | 2,300 | 2,650 | 3,050 | 1,700 | 2,000 | 2,300 |
30~49(歳) | 2,300 | 2,700 | 3,050 | 1,750 | 2,050 | 2,350 |
50~64(歳) | 2,200 | 2,600 | 2,950 | 1,650 | 1,950 | 2,250 |
65~74(歳) | 2,050 | 2,400 | 2,750 | 1,550 | 1,850 | 2,100 |
75以上(歳) | 1,800 | 2,100 | – | 1,400 | 1,650 | – |
妊婦(付加量)3 初期 |
+50 +250 +450 |
+50 +250 +450 |
+50 +250 +450 |
|||
授乳婦(付加量) | +350 | +350 | +350 |
- 身体活動レベルは、低い、ふつう、高いの3つのレベルとして、それぞれ、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲで示した。
- レベルⅡは自立している者、レベルⅠは自宅にいてほとんど外出しない者に層とする。レベルⅠは高齢者施設で自立に近い状態で過ごしている者にも適用できる値である。
- 妊婦個々の体格や妊娠中の体重増加量及び胎児の発育状況の評価を行うこと必要である。
注1:活用に当たっては、食事摂取状況のアセスメント、体重及びBMIの把握を行い、エネルギーの過不足は、体重の変化又はBMIを用いて評価すること。
注2:身体活動レベルはⅠの場合、少ないエネルギー消費量に見合った少ないエネルギー摂取量を維持することになるため、健康の保持・増進の観点からは、身体活動量を増加させる必要がある。
表1:一日の消費カロリー目安表
厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2020年版)より作成[1]
ご自身の年齢や性別、身体活動レベルによって一日の消費カロリーの目安が把握できたと思います。身体には個人差があるので、あくまでも目安の数値ですが、この数値を把握しているのとしていないのでは大きな差になります。
ざっくりいえば、これより摂取カロリーを少なくすれば痩せ、多くすれば太る可能性があります。カロリーは食事の内容によって大きく変わりますので、ここで栄養価が高く、カロリーの低いプロテインの出番というわけです。
体重を落とす
摂取カロリー < 消費カロリー
計算上は摂取カロリーよりも、消費カロリーの合計を大きくできれば、痩せられます。ここでいう痩せるとは「筋肉を極力落とさずに、健康的に体重を落とす」ことで統一させていただきます。
食事の内容を踏まえて、プロテインをプラスするのか、それともなにかと置き換えるのかは、この総摂取カロリーが鍵になるのです。
食事だけで、すでに摂取したカロリーが消費カロリーを上回っているのに、さらにプロテインをプラスすればオーバーカロリーとなって、体脂肪の増加につながってしまいます。
例えば、脂っこいものやスナック菓子を食べる機会が多い方は、食事の総カロリーが増えやすい傾向にあります。糖質とタンパク質は1gあたり4kcalなのに対し、脂質は1gあたり9kcalと三大栄養素の中では最も高カロリーです。
痩せたいけど、3食のごはんをあまり減らしたくないという方は、まずは間食のお菓子をプロテインに置き換えて、全体的なカロリーを減らすという使い方にしてみましょう。
何事も極端に行うのは継続するのが難しいですよね。少しずつ、できることからが肝心です。
体重を増やす・筋肉を増やす
摂取カロリー > 消費カロリー
先ほどとは反対に、摂取カロリーよりも消費カロリーの合計を小さくすれば、増量することが可能になります。ここでいう増量とは「筋肉量を増やし、体格を大きくすることを目的とした増量」です。
極端な話、ただ単純に太りたければ、際限なく食べれば太ることにつながります。減量と同様、なにを食べるかがとても大切です。
もちろん、余分な体脂肪をつけたくないという方はいらっしゃると思います。増量の際には、筋肉量の増加に伴って体脂肪がついてしまいます。最低限の脂肪増加につなげるには、ジャンクフードやお菓子類は避けて、健康的なバランスの良い食事内容をキープしつつ、食事量や回数を増やしていく必要があるのです。
プロテインは食の細い方や余分な脂質や糖質を控えたい方には、おすすめのサプリメントです。間食や食事の際のドリンク代わりに取り入れるのもよいでしょう。
プロテインの適切な飲み方
つまりプロテインを飲むだけではダメなんです。プロテインを身体にうまくいかすには、現状の把握と目標設定が必要です。
今の自分が「どんな身体」で、「どんな食事」をしていて、「どれだけの運動」をしていて、「いつ」までに、「どう」なりたいのか。これを考えるところからはじめましょう。
計画を立てたときに、少しでも無理を感じるようであれば、それは現実的とはいえません。無理なダイエットには必ず、失敗やリバウンドがつきもの。
ここからはプロテインを適切に利用する方法をご紹介します。
カロリーと三大栄養素
合計カロリーの収支が大切なことはご理解いただけましたでしょうか。
これに加えて、三大栄養素(タンパク質、糖質、脂質)のバランスがとても大切になってきます。例えば、減量をしたい方は総摂取カロリー水準から-500kcalを目安にしましょう。反対に、増量したい方は総摂取カロリー水準から+500kcalを目標にします。
±500kcalを7日間続ければ、1週間でそれぞれ±3,500kcalになります。体脂肪は1kgあたり約7,000kcal蓄えていますので、2~3か月継続すれば、自ずと数値に変化がみられるはずです。
CASE1.部活を頑張る男子高校生 身体を大きく成長させたい
- 身長170㎝
- 体重60kg
- 身体活動レベルⅢ
- 総摂取カロリー基準3,150kcal
増量を目的とする場合、カロリーの基準である3,150kcalに+500kcalを目標にします。
次に、合計3,650kcalの内訳を決めていきましょう。第一優先はカラダづくりの材料になるタンパク質ですね。運動部の男子高校生の場合、体重×1.4~2.0倍は摂取したいところ。2倍と仮定すると「60kg×2g =120g」のタンパク質が必要になります。
タンパク質は1gあたり4kcalですので120g×4kcal=480kcalになります。タンパク質を120gとなると、肉や魚で600~700g、卵だと17個程度。これだけの量を食事だけから補うのは相当大変ですし、食費もかさみます。調理する親御さんの負担も大きいことでしょう。
しかしプロテインを1日2回(1回あたり約20g)飲めば、40gのタンパク質を補えます。残りの80gは部活をしていてよく食べる高校生なら、通常の食事内で十分まかなえるため、補食※1としての食事を作る負担や経済的な負担も減らせます。
※1 補食:運動により傷ついた筋肉や、失われたエネルギーのグリコーゲンを「補う」ための食事。おやつや間食と同義語。
次に脂質。脂質は栄養バランスを考えると、全体カロリーの20%程度に収めたいので、3,650kcal×0.2=730kcalとなります。730kcal÷9kcal=81gの脂質をとることができます。
また調理法の違いで大きく脂質の摂取量は変わります。鶏もも肉(100g)で比べてみましょう。
約:鶏もも肉(皮なし)⇒161kcal※脂質 5.8g
焼く:鶏もも肉(皮つき)のグリル⇒241kcal※脂質 13.9g +8.1g
揚げる:鶏もも肉(皮つき)のからあげ⇒313kcal※脂質18.1g +12.3g
油脂を使い調理するだけで、こんなにも脂質の摂取量が変わるんです。脂質は消化に時間がかかりますので、内臓への負担を考えると、できるだけ余分な脂を避けた食事を心掛けたいですね。
最後に、合計の3,650kcalからタンパク質と脂質を引いた残りのカロリーを糖質から摂取します。
糖質(炭水化物)の計算は、
3,650kcal -(タンパク質480kcal+脂質730kcal)=2,440kcal
糖質は1gあたり4kcalなので、2,440kcal÷4kcal=610g の糖質をとることになります。
ごはんに含まれる糖質はお茶碗1杯150gあたり約55gですので、約11杯分を食べる必要があります。食パン(6枚切り)でも1枚当たり約30gですので、20枚以上は食べる必要があるのです。よほどの大食漢でない限り、1日3食に分けたとしても、ごはんであれば1回あたりお茶碗4杯分、食パンであれば6~7枚は大変です。
増量を目指す方は、おやつの時間や間食をうまく利用し、効率的にカロリーを稼ぐ必要があります。例えば、部活終わりにおにぎりとプロテインやサンドイッチとプロテイン。夜食にバナナとプロテインなどを加えると、無理なくカロリーを稼げます。
三大栄養素のバランス
- タンパク質:60kg×2g=120g、120g×4kcal=480kcal
- 脂質:3,650kcal×0.2=730kcal、730kcal÷9kcal=81g
- 糖質:3,650kcal-(480kcal+730kcal)=2,440kcal、2,440kcal÷4kcal=610g
CASE2.ダイエットに励むアラフォー女性 今度こそ成功させたい
- 身長155cm
- 体重55kg
- 身体活動レベルⅡ
- 総摂取カロリー基準2,050kcal
ダイエットに励む方は、総摂取カロリーから-500kcalを目安にしたいところ。つまり一日の総カロリーを1,500kcal程度に抑える必要があります。
1つ目のケースと栄養のバランスは同じです。量が変わりますので下記を参考にしてみてください。
三大栄養素のバランス
- タンパク質:55kg×2g=110g、110g×4kcal=440kcal
- 脂質:1,550kcal×0.2=310kcal、310kcal÷9kcal=34.5g
- 糖質:1,550kcal-(440kcal+310kcal)=800kcal、800kcal÷4kcal=200g
タンパク質110gは肉や魚でいうと500g~600gは必要です。卵なら14個。特に女性だとそんなにたくさんは食べられませんよね。また肉や魚には脂質が含まれているため、余分なカロリー摂取になってしまいます。
しかしプロテインを1日2回(1回あたり約20g)飲めば、40gのタンパク質を補えます。残りの70g は1日3食の中で割り振りを考えましょう。メインのおかずをタンパク質豊富な肉、魚、卵のいずれかにしてしっかりと食べれば、ごはんやパンにもタンパク質は含まれていますので、問題なく補えます。
糖質はお茶碗4杯分にあたりますので、極端な糖質制限は必要なく、しっかりと3食のごはんを食べられるメリットがあります。うまくいけば、和菓子やドライフルーツなどのヘルシーなスイーツも食べられるかもしれません。就寝前や小腹がすいた時には、プロテインを使ったスムージーなどを取り入れると、おいしくタンパク質を補えますよ。
先ほどの事例でご紹介したように、食事内容を見直して適切な量とタイミングで食事をとることで、身体には良い変化が起こります。朝昼夕の食事を基本として、目的に沿ったプロテインの利用をおすすめします。
まとめ
残念ながら、プロテインはすべてを解決してくれる魔法の食品ではありません。「飲むだけで〇〇!」という直接的な効果は期待できないのが本当のところ。しかしプロテインが持つ高い栄養価や、手軽で簡単に飲めるという利便性を利用しない手はありません。
自分の身体を知り、生活にマッチする形で取り入れれば、あなたのカラダづくりをサポートしてくれることでしょう。
ただし無理は禁物です。健康的な食生活は継続するのも大変ですし、とてもハードルが高く、辛くなって諦めてしまうことがあります。
頑張った自分にはご褒美の意味も込めて、たまには甘やかしてあげる時間も大切です。お菓子だって食べてはいけないものではありませんし、心を満たしてくれる大切なものです。
心身共に健康で、自分の理想とする身体に近づくには「待つ」ことが必要となります。こどもの成長をそっと見守り、支えるように、自分の身体に寄り添ってあげましょう。
参考文献
文部科学省. 食品成分データベース, https://fooddb.mext.go.jp/
1. 厚生労働省. 「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書. https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08517.html