1日の終わりにプロテインを摂取すべき理由とは?
「寝る子は育つ」ということわざがあるように、子どものカラダから大人のカラダへと変貌を遂げるとき、「睡眠」と「成長ホルモン」に因果関係があることは多くの方がご存知だと思います。
また日常的に、ボディメイクやスポーツの競技力向上のために「筋肥大」を目的としたトレーニングを実践されている方もインターネットやSNSなどを通じ、筋肉の成長には「睡眠」と「成長ホルモン」が強く関わっていると一度は目にしたことがあるのではないでしょうか?
しかしながらこれまでトレーニングなどによる筋肉の成長の必須要因として、重要なパートナーシップを形成してきた「1日の終わりのプロテイン摂取」と「睡眠」の関係は、近年、その様相が少し変化しています。
しかしながらこれまで筋肉の成長の必須要因として、強力なパートナーシップを形成してきた「就寝前のプロテイン摂取」と「成長ホルモン」の関係は、近年、その様相が少し変化しています。
こちらの記事では、まず普遍的な成長期における成長ホルモンの作用をご理解していただきます。そして変化してきている知見を元に、「睡眠時に分泌される成長ホルモン」と「プロテイン(タンパク質)摂取」のカラクリを紐解きながら、
「1日の終わりにプロテインを摂取すべき理由」について解説していきます。
成長期における成長ホルモンの働き
成長ホルモンは脳下垂体から分泌され、その主な作用は骨の伸長や筋肉の発達・再生を促すことにあります。生涯の中でその変化が著しい思春期前後に分泌量が最も活発になり、加齢とともにその量は減少していきます。加えて血糖の維持や脂肪の分解など、身体のエネルギー代謝にも関与しているのです。
成長ホルモンの分泌量が減少していくとはいえ、成体となり骨格形成を終えた後でも、遺伝情報に基づいたその形態を維持するため、組織のスクラップ&ビルドは循環的に繰り返され「基礎分泌」といわれる一定量の分泌は絶えず起こっています。
1日の生活サイクルの中での分泌は、就寝中に顕著になります。ヒトは約1.5時間の周期の中でレム睡眠※1とノンレム睡眠※2を繰り返し、成長ホルモンは、ノンレム睡眠時に分泌されます。
※1 レム睡眠:浅い眠り。カラダは休息し、目を閉じているが、眼球はキョロキョロ動き、脳は活動している。夢はこの時間帯にみる。
※2 ノンレム睡眠:深い眠り。カラダ、脳ともに休息した状態
またサーカディアンリズム※3にも影響を受け、年齢差や性差を考慮せねばならないものの、23時~3時頃に分泌が盛んになるといわれています。特筆すべきは若年期では、睡眠をとる時間帯にもかかわらず、睡眠開始に依存して分泌がおこります。
※3 サーカディアンリズム:体内時計により約24時間周期で生理機能はスケジュール管理されている。日の出とともに身体細胞は目覚め昂揚して能動的になり、日没ととも眠くなって沈静化し、睡眠とともに修復や再生を行う機能。
スポーツ選手やファッションモデルが長身である理由を尋ねられたとき「子どものころ暇さえあれば寝ていましたから……」というようなエピソードも、あながち間違いではないのかも知れません。
同時にこの時期は、カラダの成長に触発されて消費エネルギー量も増加します。そのため材料となる「タンパク質」の需要も高まりますので、睡眠中の成長に必要な栄養素を補うための、1日の終わりにプロテインを摂取することは有用である可能性が高いといえるでしょう。ただし、寝る直前は胃に負担がかかるため、遅くても寝る60分以上前の摂取をオススメいたします。
「睡眠時に分泌される成長ホルモン」に対して、なぜ「プロテイン摂取」が重要視されのたか?
過去の研究報告から、成長ホルモンの分泌量と運動強度には相関関係があるとわかっていました。
ダンベルやバーベルを使い、日常生活ではあまり体験することのないような負荷を漸進的に筋肉にかけていけば、成長ホルモンの分泌がより高まり、筋肉は成長するものだと考えられていました。当然その分泌が盛んになる入眠前に、その材料である「タンパク質」を補給しておきたい……。
けれど肉や魚を摂っても消化吸収に時間がかかる。だったらそれよりも消化吸収の負担の少ない「プロテイン」を摂取するというスキームができあがるのも至極当然のことです。
成長期の事例でもあるように、骨の伸長や筋肉の成長には切っても切り離せないホルモンであると妄信的に理解されていた時代のなごりが、今も情報として根強く発信されているといっても過言ではないのです。
また運動強度の増加による成長ホルモン分泌の上昇は、糖質や脂質代謝など多岐に渡る標的細胞への関与であり、その上昇がどちらに起因するもなのかを特定できなかったことも見逃せません。
なぜ1日の終わりにプロテインを摂取すべきなのか?
前述した「妄信的成長ホルモン重要説」と近年の知見を絡め、わかりやすく解説してみましょう。
例えば、太もものトレーニングをすれば太もも、上腕のトレーニングをすれば上腕の筋細胞が損傷します。身体の器官を擬人化して表現してみるならば、
「脚だろうが腕だろうが、その損傷の修繕を管轄する部署は脳下垂体です。それにあたっては成長ホルモンさんが担当します。各筋肉さん勝手な行動は謹んで。」
という感じで捉えられていた説が、
「おいおい、トレーニングでどんどん筋肉が傷ついちゃってるよ。脳下垂体からの指令は待っていられねぇ。各筋肉それぞれに属するマイオカイン部隊で独立して修繕していくべきだ」
という感じに変化してきているのです。
これまで脳下垂体から分泌される成長ホルモンが遠隔での情報を察知し、睡眠時間までタイムラグがあり、その回復に強く作用するとイメージされてきました。しかし筋肉自体にも「マイオカイン」と命名された、ホルモンに似た数種の生理活性物質の分泌があり、トレーニングの最中からその修繕に動き出すことがわかってきたのです。
動物実験では、脳下垂体を切除し、成長ホルモンの分泌を阻害した運動負荷のもとでも筋肥大が起こることも確認され、成長ホルモンの関与が筋の肥大・再生の絶対条件でないことがわかってきています。
これまで定説とされてきた「成長ホルモンの分泌時間帯による筋肉合成をターゲットとした1日の終わりに材料であるプロテインを摂取」も、マイオカインの働きに傾倒して摂取せねばならないとご理解いただけたかと思います。
それでは1日の終わりのプロテイン摂取は、どのような意味をもつのでしょうか?まず下記記事をご参照ください。
筋の分解と合成の天秤は、
- 筋力トレーニング
- 空腹
- 食事
を起点とし、流動的にその傾きのベクトルを変えます。ある特定の時間帯をピンポイントで狙った摂取よりも、時間軸を設定した等間隔のタンパク質摂取という目的の方が実践的です。
1日の終わりのプロテイン摂取は、いわば規則性のある定期的なタンパク質摂取が、睡眠のために遮断されることをとどめるためのチャージといえます。つまり同じ1日の終わりの摂取といっても、急激な組織の発達のために成長ホルモンの分泌と協調的にタンパク質が利用される「成長期のそれ」とは意味合いが変わってくるのです。
まとめ
いかがでしたか?
まだまだ見慣れないテクニカルターム「マイオカイン」とともに、1日の終わりのプロテインを摂取すべき理由ついて解説いたしました。
これまで、ちょっと乱暴にいえば「単に伸びたり縮んだりして、力を発揮するだけの運動器」と理解されてきた筋肉ですが、実は血管系の疾患や認知症予防などの改善にも寄与する、内分泌器官なのではないか?との期待が高まっています。
まだまだ未知の部分が多く、「筋肉とマイオカイン」の秘めたるパワーの研究は、益々飛躍的に発展していくでしょう。タイトルからいくと思わぬ方向に舵をきったともいえなくもない当記事。今後も難解、奇々怪々な文字が並ぶような生理学分野のお話も「プロテインの読みもの」がトランスレーターとなり皆さまのお役に立てるように頑張たいと思います!!
参考文献
石井直方. 筋肉を太くするカギを握る「インスリン様成長因子」とは:“筋肉博士”石井直方のやさしい筋肉学:日経Gooday(グッデイ). 閲覧2020-05-16, https://gooday.nikkei.co.jp/atcl/column/15/040200001/091900059/?P=3
鈴木圭輔・平田幸一. 睡眠時間と成長ホルモンの分泌量|Web医事新報|日本医事新報社. 閲覧2020-05-16, https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=8215
山田茂・大橋文・木崎恵梨子. (2012). 「運動による骨格筋の肥大機構の文献的研究」『実践女子大学生活科学部紀要』, 49, 191-201.
古市泰郎・藤井宣晴 (2016). 「マイオカインによるサテライト細胞の制御機構」『基礎老化研究』, 40(1), 27‐33.